第二章~EPISODE19【裏切り】
【|未来へ繋ぐ者達《テスタメント》】秘密基地へ轟音とともに再び地響きが発生する。
エイブルは、部下達へと伝達する。
「至急、部隊をアルバ王国へ向かわせるんだ!」
「はっ!!」
部下達は、アルバ王国へと経つ準備を始める。
「ヨルカは!?」
「それが…先程から…」
エイブルは、護衛であるヨルカもアルバ王国へ向かうように指示を出そうとしたが、ヨルカの姿が見当たらない。
ヨルカは【|未来へ繋ぐ者達《テスタメント》】の中でも屈指の実力者の一人。
アルバ王国への救援に役立つ。
一刻も早く、救援に向かわなければならないのだが、肝心のヨルカが居ないと部下の1人が言う。
今まで、ヨルカがエイブルの呼び掛けに応じなかった事は、一度たりとしてない。
エイブルの頭に嫌な予感が過ぎる。
※
【|未来へ繋ぐ者達《テスタメント》】基地、見張り台。
ヨルカは、少し溜め息を零して、見張り台へと足を運ぶ。
他の兵士達が、敵の襲撃に備えて警戒を厳としていた。
各国での襲撃を受け、【|未来へ繋ぐ者達《テスタメント》】も狙われている可能性があるからだ。
「お疲れ様です、ヨルカ隊長」
「ああ、ご苦労。敵は来そうか?」
「これだけ、警備を万全にしているのです。軍勢で押し寄せようとも、防衛出来るでしょう」
【|未来へ繋ぐ者達《テスタメント》】の戦力は、大国ゼバンに並ぶほどにまで、増強されている。
兵士の言う通り、軍勢で押し寄せようとも、防衛する事は不可能ではない。
「ぷぷっ」
ヨルカは、口元を抑えて笑みを浮かべる。
「どうされました?」
ヨルカの浮かべた表情に、兵士はギョッとする。
口角は、上がるだけ上がり、恐怖とも言える程不自然な笑み。
「案外、敵は近くに居たりして」
「な、何を!?ぐぁぁぁぁぁぁぁッ!!」
ヨルカの貫手と共に、血飛沫が上がる。
そして、瞬く間に見張り台にいた兵士達が、次々と死体に変わり果てて行く。
異変に気付いた兵士達は、応戦しようとしたが、行動に思考が追い付いていない。
エイブル直轄の護衛部隊長が、攻撃を仕掛けて来るなど、誰が予想しただろうか。
為す術なく、ヨルカに蹂躙されてしまう。
「あー、スッキリしたぁー」
返り血を浴び、手からは始末した兵士達の血が滴り落ちる。
口元に滴る血を舌でペロリと舐め取り、不敵に笑う。
「ヨルカ様。手筈は整いました」
黒の鎧に身を包む、伝令がヨルカの傍に姿を現した。
「おつおつ〜。さて、始めるとするかー」
不敵な笑みを浮かべた。
「護衛部隊長なんて、馬鹿らしい」
ヨルカは軍帽を深く被る。
「さてとー。殺戮の始まりだ」
※
「エイブル様、出立の準備は整いました」
「ゴウガ。迷惑を掛けるけど、何とか頼むよ」
「とんでもございません。我々は、貴方に忠誠を誓った身。戦場であろうと、どこだろうとお力添えを致します」
鎧に身を包む、オーガ。
彼の名は、ゴウガ。
【|未来へ繋ぐ者達《テスタメント》】が誇る実働部隊副隊長であり、中でも屈指の武闘派である。
現在において、これ程頼もしい存在はいない。
橋を渡ろうとすると、エイブル達は足を止める。
橋へ立っている少女が居たからだ。
「どうして、ここに居るんだい?」
「……」
エイブルが尋ねると、少女は口を噤む。
「タキア?」
エイブルがそう呼び掛け、近付こうとすると、ゴウガが制止し、構える。
「エイブル様、お下がりを」
ゴウガは、感じ取っていた。
タキアの様子がおかしい事に。
「やらないなら、私が片付けるけど?」
「なっ!?」
エイブルは驚いてしまう。
タキアの横に護衛であるヨルカが姿を現す。
「ヨルカ!?何をしているんだ、各国が襲撃を受けているんだぞ!それにアルバ王国への救援にも…」
すると、ヨルカが高笑い。
「面白いっていうか、滑稽だねー、エイブルさ・ま。わっかんないかなー。私ら、裏切ったんだよ。まー、最初からって言えば最初からだけど」
「何を言っているんだ…?」
エイブルは、目の前の出来事を受け止められなかった。
信頼しているはずの、2人が裏切ったと、受け入れ難い事だ。
冗談なのではと、あるはずもない、可能性に賭ける。
「あんたは、すぐに人を信用するからね。容易に入り込めたし、お陰で【大いなる計画】がここまで進んだ訳だしね」
「【大いなる計画】?まさか…狩る者の仲間か!」
「まー、その通り。私は、【|黒不死鳥《ハルファス》】幹部の一人、ヨルカ。あんたを始末するように言われてるんで、潜入してたんだけど。ようやく始末出来るから嬉しいよ」
ヨルカは、【|未来へ繋ぐ者達《テスタメント》】を始めから裏切っていた。
その正体は、【|黒不死鳥《ハルファス》】の幹部だった。
「じゃあ…タキアも…なのかい?」
「エイブル様…申し訳ありません。わたしには、守るべき人がいるのです。貴方達よりも大切な人が」
エイブルは、アルミスの事だと、タキアの想いを汲み取る。
「それに、アルバ王国は、今頃無くなってるだろうし。行くだけ無駄なんで、とっとと死んでもらいましょ」
ヨルカは、鼻で笑う。
「アルバ王国が…!?」
エイブルが焦りを見せる。
すると、地面が割れた。
「エイブル様。腹を決めて下さい。裏切りについては、受け止められないことも事実。ですが、やるべき事が残されています」
ゴウガの拳が地面にめり込んでいた。
やるべき事。
それがある限り、進まなければならない。
例え、味方が敵になったとしても。
「そうだね…。やるべき事を果たそう」
エイブルは、懐から1枚の札を取り出し掲げると、白煙の柱が上がる。
撤退の合図。
【|未来へ繋ぐ者達《テスタメント》】の基地を放棄するのだ。
「撤退か…。だけど、アンタらは逃がさないよ」
ヨルカは短剣に手を掛け、魔力を解き放つ。
紫の輝きを身に纏う。
エイブルは、全身に魔力を巡らせると、ヨルカは身構え、タキアは距離を取った。
見た事のない魔力。
最弱と呼ばれるエイブルが魔力を全身に巡らせたのだ。
警戒するのも当然ともいえる。
(何する気だ…)
ヨルカの知る限り、見たことがない呪文だ。
「ゴウガ!」
撤退するための呪文だと即座に判断した、タキアはいち早く、行動を起こしていた。
「逃がしません」
タキアの姿を横目にゴウガは、蹴りをタキアへ浴びせた。
「行ってくださいエイブル様!」
「くっ…!【ルーラ】ッ!!!」
「「!?」」
エイブルは、ゴウガを残し、空高く飛び去って行った。
「ちょっ…、そんなの聞いてないんだけど!」
ヨルカは、驚きを隠せなかった。
各地のルーラストーンは、撤退防止のために破壊している。
そのため、ルーラストーンでの移動は不可能になった。
それをエイブルは、【ルーラ】という呪文を発動させて逃げ仰せてしまった。
「私も見るのは初めてでした。まさか、【失われし呪文】を使う者がいるとは…」
タキアは、左腕を抑えながら、ヨルカの横に立つ。
「どしたの?」
「流石は、【豪傑】と謳われた人ですね。使い物にならなくなりました」
タキアの左腕は、ぷらーんとぶら下がっている状態だった。
ゴウガの繰り出した蹴りは、咄嗟に張った魔力防御を粉砕する程の威力だ。
現にタキアの左腕は粉砕されてしまった。
「へぇー強いんだ。面白そ♪」
ヨルカは舌なめずりをして、不敵な笑みを浮かべる。
強者を倒す事が、彼女の生き甲斐だ。
「お前達、2人が裏切り者とは、信じ難い。だが、敵であるなら我が拳で粉砕してくれる」
ゴウガは構えると、魔力を解放する。
凄まじい程の魔力は、地面に亀裂が入り、分厚い魔力が身を包む。
「ヨルカ、油断しては駄目ですよ。彼はアルミス様が来るまで、その身一つで、組織を支えた実力者の一人です」
「あんな筋肉ダルマに負けないって」
ヨルカは、フフンと鼻で笑う。
「は?」
瞬きをする間もなく、ヨルカの顔面にゴウガの繰り出した拳が炸裂する。
顔面が陥没する程、めり込み、その衝撃ですっ飛んで行った。
「覚悟しろッ!!!」
ゴウガは、拳を握る。