第二章~EPISODE31【絶対絶命】

「急ぎ負傷者を!」

「こっちだ!瓦礫に人が埋まっているぞ!」

「シルワさん達は!?」

爆風から生き延びたアルバ王国騎士団の騎士や兵士達は、人々の救助にあたっていた。

しかし、統率者が居ない状態で行動が続き、パニックに陥っていた。

「一体…何がどうなって…」

混乱もするはずだ。

突如として、アルバ王国を襲った大爆発。

対応出来るわけがない。

生き延びた事が奇跡と言える。

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「ハース!アルドさんも居ないぞ」

ハースと呼ばれた兵士の元へ、生き残りを確認していた兵士が駆け寄って来る。

「本当なのか、ケイン。アルド隊長が?まさか…爆発に巻き込まれたのか…?」

ケインと呼ばれた兵士は、焦った表情で首を縦に振る。

彼ら2人は、アルドの直属の兵士であり、訓練兵時代に手ほどきを受け、アルドを慕っている。

行動も多く共にしていたため、不安が増すばかりだ。

だが、ハースは決意を固める。

「…今は生き残りがいないか捜そう。出来ることをするんだ!アルド隊長なら、そうする」

「そうだな!」

流石は、アルドと行動を共にしていただけの事はある。

他の兵士達にも声を掛け、捜索に出ようとした時、爆発音のようなものが響き渡った。

「戦闘…?襲撃者かもしれない!何人か付いて来てくれ!行くぞッ」

ハースとケイン他5名は、戦闘音が鳴り響く場所へと急行した。

パチ、パチ、パチ。

ゆっくりとした動作で、トレートルの乾いた拍手が鳴る。

それは、アルドに対しての賞賛だ。

アルドはというと。

「くそ…」

実力差が開いているとはいえ、まだ生き残っていた。

アルドが決死の抵抗を見せている訳ではなく、トレートルが分析しているからだ。

「中々、見所がある。魔力の扱いも、成長次第ってところかな」

「なに?」

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「どうだい?俺たちの仲間にならないか?」

トレートルは、アルバ王国を攻略しろと、パールスに命じられてはいる。

そもそも、人員を確保する命は受けてはいない。

それは別の人間の仕事だ。

しかし、パールスの見立てでは、幹部の何人かは命を落とすと確信している。

パールスが伝えた訳ではないが、見込みがある者をわざわざ殺す必要がないと判断したのだ。

「ふざけるなよッ!」

アルドは、地面を蹴り、トレートルの懐に踏み込んだ。

短剣で斬り付けるのかと思いきや、素振りだけでトレートルへ体当たりをしてみせる。

体勢を崩したところで、ようやく短剣を振り抜いた。

仰け反った体勢にも関わらず、トレートルはゴムのように体がしなり、地面に両手を付けた状態でかわす。

普通であれば、短剣を振り抜いた時点で勝敗は決する。

だが、相手が相手。

容易にはいかない。

トレートルは、バク転をしながらアルドを蹴り上げた。

アルドも反撃が来ることを予想していたため、腕に魔力を巡らせ、受けたと同時に後ろへ飛んでいた。

そのお陰で、衝撃は多少ではあるが、受け流せていた。

びりびりと衝撃が腕に伝わる。

魔力を巡らせ、防いでいなければ、確実に腕は粉砕。

悪ければ、ちぎれ飛んでいただろう。

冷静さを欠いていると思われたアルドであったが、集中力は凄まじく、常に相手の攻撃を予想し、行動していた。

「殺すのは惜しいけどな〜、どう思う?」

ヘレスにトレートルが視線を向ける。

「私に聞くな…」

ヘレスは何かを察知し、視線をトレートルから外すと、矢がトレートルの肩に突き刺さった。

「痛いな~。撃ち落としてよ」

「どうやら、増援みたいだな」

トレートルは、矢を抜くとそこからは血が溢れ出す。

「アルド隊長!」

「ハース!ケイン!無事だったのか?」

「アルド隊長も…ご無事で!あいつらが襲撃者…ですか?」

ハース達は、アルドを囲むようにして陣形を組む。

アルドが襲われていると遠目から判断し、先制攻撃ともいえる矢の一撃は、トレートルの右肩に命中していた。

ケインは、倒れていたシルワ達を発見し、駆け寄ろうとするが、それをアルドが制止する。

「ケイン、あの3人は既に殺られた。陣形を乱すな」

「しかし…まだ生きているかも…」

「お前の気持ちは分かる。俺だって信じたいさ。だが、今はアイツらをどうにかする」

ケインの生きているかも知れない。

この気持ちは分かる。

しかし、アルドは無惨に殺された光景を目の当たりにしている。

今は、すべき事をするしかない。

人数は、こちらが有利だが、実力は2人と言えど、圧倒的に上だ。

だが、アルドは勝つための思考を巡らせていた。

トレートルは、矢を肩に受けた。

魔力を全身に巡らせているのであれば、サイシンの鉄甲斬を防いだように、矢は弾かれるはずだ。

温存している可能性はあるが、魔力防御が出来ない程、枯渇している可能性が高い。

となれば、ヘレスに集中出来る。

「トレートル。奴は気付いたようだぞ?」

「みたいだね」

「お前は魔力を回復させておけ、後は私がやろう」

「ほいほい」

ヘレスは、背負っている斧に手を掛け、前に出る。

トレートルは、魔力を回復させるために、後方へと飛び退いた。

「どうやら、あいつが相手するらしいな。いいか、油断するなよ。陣形は対応陣形でいく」

「「はっ!」」

アルドを中心に、ハースとケインが前に出て、剣を構え、後方には2人の支援兵。

アルドの後ろには、弓兵が3人位置につく。

対応陣形。

あらゆる攻撃に備え、防御を固める陣形。

訓練と実戦を経て、会得した連携。

これであれば、勝機はある。

「行くぞッ!」

アルドの合図で、ハースとケインが剣を引き抜いて走り出した。

すかさず、支援兵は、【ピオリム】ですばやさを上げ、【スクルト】で防御力を高め、【バイキルト】で攻撃力を向上させた。

アルド達にとっては、ヘレスの実力は未知数。

先制攻撃で様子見だ。

「雑兵が相手になる訳ないだろう」

ヘレスは、突撃して来る2人をまとめて、始末しようと斧振り抜いた。

しかし、2人は間合いに入る直前で、左右に分かれ飛んだ。

「む!?」

ヘレスは、魔力を全身に巡らせ、防御を固めた。

分かれた2人の後方からは、【ダークネスショット】が放たれていたのだ。

体勢を整える隙を与えず、2人はヘレスの懐に入り込んでいた。

「「【はやぶさ斬りッ!!】」」

同時にとくぎを発動させ、【はやぶさ斬り】を浴びせるが、ダメージはない。

「小癪な!」

斧でなぎ払おうとしたが、頭上からは矢が降り注ぐ。

連携攻撃は、ヘレスに体勢を立て直す暇を与えない。

「絶え間なく攻撃しろ。魔力防御だって、完全無欠じゃない。必ず綻びが出来る」

「了解!」

弓兵による矢の雨に、支援兵による攻撃呪文による後方支援。

接近を許さない、前衛。

まるで、まとわりつく攻撃だ。

次第にヘレスの頭に血が登っていく。

冷静さを失えば失うほど、アルドの思うツボだ。

絶え間ない攻撃は、確実にヘレスの魔力を削り取っていく。

ヘレスに取っては、纒わり付く2人が厄介過ぎる。

振り払おうにも、予想していたより、動きが素早い。

こちらが、攻撃をする前に避けられてしまう。

フェイントを混ぜて、攻撃しようともしたが、避けられるのだ。

これが、ハースとケインが身に付けた観察力だ。

相手の動きを瞬時に判断し、攻撃をかわす。

毎日訓練に明け暮れていたからこそ、出来る芸当だ。

ヘレスの一撃が仮に当たったとして、助かる見込みはないだろう。

だが、当たらなければ、死はない。

トレートルは、事の成り行きを魔力を回復させながら見守っていた。

というよりも、鼻歌まで奏でている。

ヘレスが負ける訳がないという絶対的自信があるからだ。

「行くぞ、ケイン!」

「おう!」

ハースは、剣に炎を集中させ、カインの剣には稲妻が収束する。

「【かえん斬り】!」

「【ギガスラッシュ】!」

ドンッ。

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地面に亀裂が入る程の衝撃だった。

それは、ヘレスが踏み込んだ音だった。

ダメージを顧みず、怒りの一撃が繰り出されようとした。

2人はそれを見逃す程、甘くはない。

攻撃を即座に中断し、飛び退いて見せた。

すると、斧は空振り。

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怒りの一撃は、掠りもしなかった。

「そう来ると思ってたぜ!」

ケインが再び、攻撃を仕掛けようとした時、異変に気付く。

足が動かないのだ。

すると、地面に頭から落下していた。

「なんだよ…これ…は?」

目を疑った。

視線の先には、自身の下半身だけが立っている。

上半身と下半身が綺麗に真っ二つになっていたのだ。

気付いた時には、既に意識はプツリと事切れていた。

先程の繰り出された斧は、触れずしてケインを両断していたのだ。

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魔力の応用である。

自身の刃に魔力の刃を形成し、リーチを伸ばしていたのだ。

今まで当たらなかった攻撃の範囲でかわしたため、魔力で形成された刃が捉えてしまった。

「よくもケインをっ!!!」

ハースは激昂し、剣を振り上げた。

「よせッ!ハースッッッ!!!!!」

アルドの叫びは、既に遅かった。

「…え」

ハースの背中には、弓兵が放った【さみだれうち】が容赦なく突き刺さる。

激昂した事により、ハースは自身の立ち位置がヘレスと重なっている事に気付いた。

射線上に出てしまったのだ。

援護のために放った攻撃が、ハース自身の首を締めた。

視線を上げると、斧が振り下ろされる直前だった。

「…アルド隊長…」

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ハースはアルドへ手を向けたが、容赦なく斧は振り下ろされ、頭から潰れ、地面の染みになってしまった。

「貴様ァッ!!!」

アルドは、前に出るが、ヘレスはアルドの元へ急接近していた。

「死ね」

アルドは咄嗟に判断する。

魔力防御でさえ、この攻撃は防ぎきれない。

選択したのは、回避。

ヘレスの斧での薙ぎ払いを地面に伏してかわしてみせた。

「お前らは逃げろ…?」

撤退の指示を出し、振り向いた時には、弓兵も支援兵も胴体が真っ二つに切断された状態で、地面に転がっていた。

「避けなければ、共に死ねたものを…」

その言葉は、アルドを追い込んだ。

ヘレスは、薙ぎ払いで魔力による斬撃を放っていたのだ。

アルドは地面に伏して助かったが、後方にいた兵士達は絶命してしまった。

「うおおおおッ!!」

アルドは足払いを浴びせるが、ヘレスは岩のように微動だにせず、ダメージを受けたのはアルド自身の方だった。

ヘレスは、アルドの腹を踏み付け、斧を振り被った。

「トレートルの奴は、お前を引き入れようとしたようだが、力無き者にこの先、生きる未来などない。ここで死ね」

絶対絶命。

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「くそぉぉッ!!!」

目を瞑り、死を覚悟した。

アルドも命を散らすのか。