第二章~EPISODE31【絶対絶命】
「急ぎ負傷者を!」
「こっちだ!瓦礫に人が埋まっているぞ!」
「シルワさん達は!?」
爆風から生き延びたアルバ王国騎士団の騎士や兵士達は、人々の救助にあたっていた。
しかし、統率者が居ない状態で行動が続き、パニックに陥っていた。
「一体…何がどうなって…」
混乱もするはずだ。
突如として、アルバ王国を襲った大爆発。
対応出来るわけがない。
生き延びた事が奇跡と言える。
「ハース!アルドさんも居ないぞ」
ハースと呼ばれた兵士の元へ、生き残りを確認していた兵士が駆け寄って来る。
「本当なのか、ケイン。アルド隊長が?まさか…爆発に巻き込まれたのか…?」
ケインと呼ばれた兵士は、焦った表情で首を縦に振る。
彼ら2人は、アルドの直属の兵士であり、訓練兵時代に手ほどきを受け、アルドを慕っている。
行動も多く共にしていたため、不安が増すばかりだ。
だが、ハースは決意を固める。
「…今は生き残りがいないか捜そう。出来ることをするんだ!アルド隊長なら、そうする」
「そうだな!」
流石は、アルドと行動を共にしていただけの事はある。
他の兵士達にも声を掛け、捜索に出ようとした時、爆発音のようなものが響き渡った。
「戦闘…?襲撃者かもしれない!何人か付いて来てくれ!行くぞッ」
ハースとケイン他5名は、戦闘音が鳴り響く場所へと急行した。
※
パチ、パチ、パチ。
ゆっくりとした動作で、トレートルの乾いた拍手が鳴る。
それは、アルドに対しての賞賛だ。
アルドはというと。
「くそ…」
実力差が開いているとはいえ、まだ生き残っていた。
アルドが決死の抵抗を見せている訳ではなく、トレートルが分析しているからだ。
「中々、見所がある。魔力の扱いも、成長次第ってところかな」
「なに?」
「どうだい?俺たちの仲間にならないか?」
トレートルは、アルバ王国を攻略しろと、パールスに命じられてはいる。
そもそも、人員を確保する命は受けてはいない。
それは別の人間の仕事だ。
しかし、パールスの見立てでは、幹部の何人かは命を落とすと確信している。
パールスが伝えた訳ではないが、見込みがある者をわざわざ殺す必要がないと判断したのだ。
「ふざけるなよッ!」
アルドは、地面を蹴り、トレートルの懐に踏み込んだ。
短剣で斬り付けるのかと思いきや、素振りだけでトレートルへ体当たりをしてみせる。
体勢を崩したところで、ようやく短剣を振り抜いた。
仰け反った体勢にも関わらず、トレートルはゴムのように体がしなり、地面に両手を付けた状態でかわす。
普通であれば、短剣を振り抜いた時点で勝敗は決する。
だが、相手が相手。
容易にはいかない。
トレートルは、バク転をしながらアルドを蹴り上げた。
アルドも反撃が来ることを予想していたため、腕に魔力を巡らせ、受けたと同時に後ろへ飛んでいた。
そのお陰で、衝撃は多少ではあるが、受け流せていた。
びりびりと衝撃が腕に伝わる。
魔力を巡らせ、防いでいなければ、確実に腕は粉砕。
悪ければ、ちぎれ飛んでいただろう。
冷静さを欠いていると思われたアルドであったが、集中力は凄まじく、常に相手の攻撃を予想し、行動していた。
「殺すのは惜しいけどな〜、どう思う?」
ヘレスにトレートルが視線を向ける。
「私に聞くな…」
ヘレスは何かを察知し、視線をトレートルから外すと、矢がトレートルの肩に突き刺さった。
「痛いな~。撃ち落としてよ」
「どうやら、増援みたいだな」
トレートルは、矢を抜くとそこからは血が溢れ出す。
「アルド隊長!」
「ハース!ケイン!無事だったのか?」
「アルド隊長も…ご無事で!あいつらが襲撃者…ですか?」
ハース達は、アルドを囲むようにして陣形を組む。
アルドが襲われていると遠目から判断し、先制攻撃ともいえる矢の一撃は、トレートルの右肩に命中していた。
ケインは、倒れていたシルワ達を発見し、駆け寄ろうとするが、それをアルドが制止する。
「ケイン、あの3人は既に殺られた。陣形を乱すな」
「しかし…まだ生きているかも…」
「お前の気持ちは分かる。俺だって信じたいさ。だが、今はアイツらをどうにかする」
ケインの生きているかも知れない。
この気持ちは分かる。
しかし、アルドは無惨に殺された光景を目の当たりにしている。
今は、すべき事をするしかない。
人数は、こちらが有利だが、実力は2人と言えど、圧倒的に上だ。
だが、アルドは勝つための思考を巡らせていた。
トレートルは、矢を肩に受けた。
魔力を全身に巡らせているのであれば、サイシンの鉄甲斬を防いだように、矢は弾かれるはずだ。
温存している可能性はあるが、魔力防御が出来ない程、枯渇している可能性が高い。
となれば、ヘレスに集中出来る。
「トレートル。奴は気付いたようだぞ?」
「みたいだね」
「お前は魔力を回復させておけ、後は私がやろう」
「ほいほい」
ヘレスは、背負っている斧に手を掛け、前に出る。
トレートルは、魔力を回復させるために、後方へと飛び退いた。
「どうやら、あいつが相手するらしいな。いいか、油断するなよ。陣形は対応陣形でいく」
「「はっ!」」
アルドを中心に、ハースとケインが前に出て、剣を構え、後方には2人の支援兵。
アルドの後ろには、弓兵が3人位置につく。
対応陣形。
あらゆる攻撃に備え、防御を固める陣形。
訓練と実戦を経て、会得した連携。
これであれば、勝機はある。
「行くぞッ!」
アルドの合図で、ハースとケインが剣を引き抜いて走り出した。
すかさず、支援兵は、【ピオリム】ですばやさを上げ、【スクルト】で防御力を高め、【バイキルト】で攻撃力を向上させた。
アルド達にとっては、ヘレスの実力は未知数。
先制攻撃で様子見だ。
「雑兵が相手になる訳ないだろう」
ヘレスは、突撃して来る2人をまとめて、始末しようと斧振り抜いた。
しかし、2人は間合いに入る直前で、左右に分かれ飛んだ。
「む!?」
ヘレスは、魔力を全身に巡らせ、防御を固めた。
分かれた2人の後方からは、【ダークネスショット】が放たれていたのだ。
体勢を整える隙を与えず、2人はヘレスの懐に入り込んでいた。
「「【はやぶさ斬りッ!!】」」
同時にとくぎを発動させ、【はやぶさ斬り】を浴びせるが、ダメージはない。
「小癪な!」
斧でなぎ払おうとしたが、頭上からは矢が降り注ぐ。
連携攻撃は、ヘレスに体勢を立て直す暇を与えない。
「絶え間なく攻撃しろ。魔力防御だって、完全無欠じゃない。必ず綻びが出来る」
「了解!」
弓兵による矢の雨に、支援兵による攻撃呪文による後方支援。
接近を許さない、前衛。
まるで、まとわりつく攻撃だ。
次第にヘレスの頭に血が登っていく。
冷静さを失えば失うほど、アルドの思うツボだ。
絶え間ない攻撃は、確実にヘレスの魔力を削り取っていく。
ヘレスに取っては、纒わり付く2人が厄介過ぎる。
振り払おうにも、予想していたより、動きが素早い。
こちらが、攻撃をする前に避けられてしまう。
フェイントを混ぜて、攻撃しようともしたが、避けられるのだ。
これが、ハースとケインが身に付けた観察力だ。
相手の動きを瞬時に判断し、攻撃をかわす。
毎日訓練に明け暮れていたからこそ、出来る芸当だ。
ヘレスの一撃が仮に当たったとして、助かる見込みはないだろう。
だが、当たらなければ、死はない。
トレートルは、事の成り行きを魔力を回復させながら見守っていた。
というよりも、鼻歌まで奏でている。
ヘレスが負ける訳がないという絶対的自信があるからだ。
「行くぞ、ケイン!」
「おう!」
ハースは、剣に炎を集中させ、カインの剣には稲妻が収束する。
「【かえん斬り】!」
「【ギガスラッシュ】!」
ドンッ。
地面に亀裂が入る程の衝撃だった。
それは、ヘレスが踏み込んだ音だった。
ダメージを顧みず、怒りの一撃が繰り出されようとした。
2人はそれを見逃す程、甘くはない。
攻撃を即座に中断し、飛び退いて見せた。
すると、斧は空振り。
怒りの一撃は、掠りもしなかった。
「そう来ると思ってたぜ!」
ケインが再び、攻撃を仕掛けようとした時、異変に気付く。
足が動かないのだ。
すると、地面に頭から落下していた。
「なんだよ…これ…は?」
目を疑った。
視線の先には、自身の下半身だけが立っている。
上半身と下半身が綺麗に真っ二つになっていたのだ。
気付いた時には、既に意識はプツリと事切れていた。
先程の繰り出された斧は、触れずしてケインを両断していたのだ。
魔力の応用である。
自身の刃に魔力の刃を形成し、リーチを伸ばしていたのだ。
今まで当たらなかった攻撃の範囲でかわしたため、魔力で形成された刃が捉えてしまった。
「よくもケインをっ!!!」
ハースは激昂し、剣を振り上げた。
「よせッ!ハースッッッ!!!!!」
アルドの叫びは、既に遅かった。
「…え」
ハースの背中には、弓兵が放った【さみだれうち】が容赦なく突き刺さる。
激昂した事により、ハースは自身の立ち位置がヘレスと重なっている事に気付いた。
射線上に出てしまったのだ。
援護のために放った攻撃が、ハース自身の首を締めた。
視線を上げると、斧が振り下ろされる直前だった。
「…アルド隊長…」
ハースはアルドへ手を向けたが、容赦なく斧は振り下ろされ、頭から潰れ、地面の染みになってしまった。
「貴様ァッ!!!」
アルドは、前に出るが、ヘレスはアルドの元へ急接近していた。
「死ね」
アルドは咄嗟に判断する。
魔力防御でさえ、この攻撃は防ぎきれない。
選択したのは、回避。
ヘレスの斧での薙ぎ払いを地面に伏してかわしてみせた。
「お前らは逃げろ…?」
撤退の指示を出し、振り向いた時には、弓兵も支援兵も胴体が真っ二つに切断された状態で、地面に転がっていた。
「避けなければ、共に死ねたものを…」
その言葉は、アルドを追い込んだ。
ヘレスは、薙ぎ払いで魔力による斬撃を放っていたのだ。
アルドは地面に伏して助かったが、後方にいた兵士達は絶命してしまった。
「うおおおおッ!!」
アルドは足払いを浴びせるが、ヘレスは岩のように微動だにせず、ダメージを受けたのはアルド自身の方だった。
ヘレスは、アルドの腹を踏み付け、斧を振り被った。
「トレートルの奴は、お前を引き入れようとしたようだが、力無き者にこの先、生きる未来などない。ここで死ね」
絶対絶命。
「くそぉぉッ!!!」
目を瞑り、死を覚悟した。
アルドも命を散らすのか。