第二章~EPISODE33【未来を覗く者】
「………」
誰だ?
誰かが…。
「……ブル」
この声は…。
「エイブル」
フィンツ…?
「聞いているのかい?」
「ごめん、少し考え事してた」
「はぁー…。参謀なんだから、しっかりしてよ」
ここは?
ああ、僕は【未来へ繋ぐ者達《テスタメント》】の基地にいたのか。
何か長い夢を見ていた気がする…。
「もしかして、また【見た】のかい?」
【見た】。
フィンツがそういうのは、僕の能力の事だろう。
【未来を覗く者】。
この能力は、その名のとおり、未来を先読みする事ができる。
他の人から見れば、便利なものだろう。
何故なら、未来が見えるのだから。
先に未来を見た後で、結末を変える事ができる。
しかし、未来なんて簡単に変わるもんじゃない。
それに、この能力は自分が意図的に発動はしない。
唐突にやって来るのだ。
偏頭痛のように。
そして、この能力が発動すると、僕が生きている限りの未来を追体験する。
これから起こりうる結末を。
だが、意識が戻った時には、夢から覚めたように、朧げな記憶だけが残る。
「うん…。平和のために、一歩踏み出した僕達だけど、これから先…多くの命が失われる気がするんだ。僕やホープ、フィンツも…命を落とすかもしれない」
これ程、嫌な予感をした事はない。
これから先、何かが僕達を襲うかもしれないのだ。
不安を募らせていると、フィンツは僕に真剣な眼差しを向ける。
「エイブル。これから先、何が起こるか分からないなら、ボクらが出来る事を精一杯、やれば良いんだよ」
「でも…僕は君達を…」
そう…。
失いたくないんだ。
これ以上、仲間を。
「なら、約束してくれ。もし、この先、ボクやホープが命を落とす事があっても…、前に進み続けると」
死ぬのが怖くないのか…。
いや、僕が臆病なだけだ。
フィンツは、心から信じているんだ。
世界を平和にする事を。
なら、応えない訳にはいかない。
「約束する…」
だが、フィンツは【狩る者】との戦闘で命を落としてしまった。
情けなかった。
いくら、未来を先読み出来ても、覚えてなければ意味がない。
僕は受け入れるしかなかった。
フィンツの死を。
でも、僕は約束した。
この約束だけは、絶対に違えない。
※
「よいしょっと。エイブル様、この本、ここに置いておきますね」
「ありがとう、ヨルカ」
僕は、護衛であるヨルカが持って来てくれた本を手に取り、読み始めようとすると、ヨルカが僕の机を覗き込んで来た。
「どうしたんだい?」
「いえ…。幸せな写真だなって」
僕の机には、ホープやフィンツが写っている写真に目を向ける。
懐かしい。
組織結成時に撮った写真だった。
「もうだいぶ前の写真だし、良かったら今度は皆で撮ろうか」
「はい♪ぜひ撮りましょう撮りましょう!」
ヨルカは笑顔を向ける。
その時、僕は知らなかった。
ヨルカが裏切るなんて。
叶わぬ夢となった。
フィンツ、ヨルカ…。
前へ進む度、僕の前から人が居なくなってしまう。
昔からそうだ。
どんなに信じても、願っても…。
僕の前から、大切な人達は去ってしまう。
あの人も。
※
「エイ…ブル…!」
「師匠…!お気を確かに…!!」
僕の傍らには、瀕死状態の師匠の姿が。
回復呪文を受け付けない呪い。
どうする事も出来なかった。
「お前が…やるんだ…でなければ…世界は…!」
「師匠…! 」
「最後の頼みだ…世界と…ヘ…ヘレスを頼む…」
「師匠…?師匠!そんな、目を開けて下さい!師匠…」
ヘレス。
師匠の妹だ。
ヘレスに何て伝えれば…。
何て伝えれば…!
言葉が見付からない。
僕は結局、その事から逃げてしまった。
責め立てられても、文句は言えないだろう。
※
「…エイブルさん、大丈夫ですか?」
僕は我に返った。
「アルド君…」
慌てて、自身の首を確認した。
切断されていない。
さっきのは…そうか…。
ずっと前に見た未来は、この時だったのか…。
なら、まだ変えられる!
ヘレスは、肩から血を流している。
という事は、この後、狩る者の不意打ちを受けて、僕もアルド君も命を落とす。
そうはさせない。
もう二度と、僕の前で何も失わせてたまるものか。
「アルド君、狩る者が動きを見せた瞬間、僕に触れるんだ。いいね?」
アルド君に耳打ちをする。
「…分かりました」
「面白くないな。そういう風に前向きに来られるのを見ていると、虫酸が走る…」
狩る者が手を向ける。
来た。
アルド君は、僕に触れた。
その瞬間、魔力防御を展開し、狩る者が放った魔力を凝縮させた弾丸のような攻撃を弾き飛ばした。
「何!?」
狩る者は、驚いたようだ。
防がれるはずもない攻撃を防ぐ事に成功した。
驚くのが当然だ。
すると、ヘレスの放った斬撃が狩る者に直撃した。
「トレートルッ!私の復讐に水を差すなッ!邪魔立てするのなら、貴様も殺すぞッ!!」
ヘレスの殺意が狩る者へと向けられる。
僕を殺すのに、執着しているのなら、明らかに水を差す行為だ。
咄嗟に攻撃してもおかしくはない状態だろう。
僕とアルド君が殺された未来では、狩る者が水を差した。
だが、アルド君が死に、僕も瀕死状態、納得のいく結果ではなかったが、ヘレスは仕方なく従ったのだ。
「分かったよ、ヘレス。悪かった。俺は用事が出来たから先に行く。早く片付けるんだよ」
そう言い残して狩る者は、姿を消した。
変わった。
未来が…!
今、未来が変わった瞬間に、喜びたいが、ヘレスを何とかしなければ。
「ヘレス…僕が君を救ってみせる!」
第二章~EPISODE32【大罪】
踏みつけられていた重みが消えた。
死んだ。
そう思った。
だが違う。
ヘレスの体が浮き上がっていたのだ。
何者かの蹴りがヘレスの脇腹を蹴りあげていた。
「ぐふっ!?」
ヘレス自身も驚いていた。
痛みを感じたのだ。
血を吐く程の衝撃が、全身を駆け巡った。
地面に転がり、体勢を立て直す。
「ヘレス!」
流石のトレートルも焦りをみせた。
圧倒的、強者の余裕が、その一撃で消え失せたのだ。
「大丈夫かい?」
蹴り上げた者は、アルドへ手を差し伸べる。
「貴方は…」
その者は、アルドよりも二回りも小さく、ましてやヘレスを蹴り上げたと信じられなかった。
「僕は【未来へ繋ぐ者達《テスタメント》】参謀エイブル。危ないところだったね。君は?」
「アルバ王国騎士団のアルドです。助かりました!」
アルドは手を取り、起き上がった。
トレートルも身構えた。
「おやおや、誰かと思えば…エイブルじゃないか」
救援に来たのは、【未来へ繋ぐ者達《テスタメント》】参謀、エイブルだった。
【ルーラ】を使い、飛んだ先はアルバ王国だったのだ。
来てみれば、広がる惨状。
行動しない訳にはいかなかった。
「これを…君らがやったのか?」
エイブルが睨み付けると、トレートルは冷や汗を流す。
「なんだその魔力は…」
目で見えるほど、はっきりと膨大な魔力が辺りに広がっていた。
「僕は最弱さ…でもね、僕だって怒る時は怒るのさ。【狩る者】」
「何だって!?」
アルドは、エイブルの言葉を聞いて、目を疑った。
8年前の戦争を引き起こした張本人だからだ。
しかし、それは大国ゼバンの騎士団によって討ち取られたはずだからだ。
「君がフィンツを…!」
「【狩る者】と一緒にしないでくれよ。俺はトレートルだ」
「嘘だね。君からは、【狩る者】と同じようなどす黒い悪臭がするんだよ」
トレートルが【狩る者】だと、確信していた。
対峙したからこそ、分かったのだ。
「ふっ、ようやく仇が取れるよ?ヘレス」
トレートルが呼び掛けると、殺気を剥き出しにしたヘレスが斧を構えていた。
怒りを顕にしていたエイブルは、一転。
怯えたように後ずさっていた。
「ヘレス…だって…?そんな…なぜ…君が?」
「私は私の目的を果たせそうだ。貴様をこの手で殺したかったぞ、エイブル」
エイブルは、死んだとばかり思っていた存在が敵として現れる。
これほど、残酷な事はない。
「貴様は我が姉を殺し…、他の守護者まで手に掛け、世界を滅茶苦茶にした。その罪、命をもって償うといいッ!」
「違う!君のお姉さんは…!」
「裏切り者の言葉など、聞く耳を持つかッ!!ここで死ねッ!!」
※
「やめるんだ!ヘレスッ!」
「黙れッ!!」
ヘレスは、殺意を剥き出しに、エイブルへと襲いかかった。
怒りを顕にしていた、エイブルであったが、避ける事しか出来ない。
かつて、自身が慕った人物の妹。
本来であれば、守るべき存在なのだ。
だが、こうして牙を剥けられている。
どうにか説き伏せようと試みるが、まるで聞く耳を持たない。
「私はずっと姉さんと平和を守ると夢見ていた…なのに貴様はッ!」
「違う!君のお姉さんを僕は殺してなんかいない!」
エイブルは、真実を告げるが、何を言っても無駄なようだ。
可能性があるのなら。
「【狩る者】ッ!一体、ヘレスに何をした!?」
操られているという可能性だ。
ヘレスは、世界を脅かす存在に、決してなり得ない。
だが、世界を脅かす存在に変貌したということは、トレートルがヘレスに何かをしたと踏んでいた。
「残念だけど、ヘレスは自らの意思で、お前と戦っている。俺は何もしちゃいないさ」
「くっ…!」
望みは絶たれた。
生き残るためには、ヘレスを倒すしかない。
しかし、倒す理由がないエイブルにとって、勝ち目なんてあるはずもなかった。
ヘレスから体当たりを浴びて、体勢を崩してしまう。
「ようやく…私は、前に進める」
ヘレスは斧を振り上げた。
脱力。
エイブルは、ヘレスに殺されても仕方ない。
そう悟った。
殺してなんかいない。
口では言える。
だが、間接的にヘレスの姉を殺してしまった事には変わりはないのだから。
「タナトスハントッ!」
「何!?」
紫色の輝きを纏う刃。
トドメを刺そうとしていたヘレスの肩を斬りつけていた。
アルドは、エイブルを抱き上げて、飛び退く。
「無事ですか?」
「あ、ああ…。助けに来たつもりが、助けられるなんて情けないね」
「貴方とアイツに何があったかは、知りません。だけど、国を滅ぼした敵に変わりはないですよ。俺の仲間だって、アイツらに殺されたんですから」
「そうだね…」
エイブルは、切り替える。
自身の迷いで、また何かを失う。
でなければ、ゴウガが繋いでくれたチャンスを踏みにじってしまうからだ。
「あのガキィ…ッ!」
ヘレスは肩を抑える。
かすり傷を負うことがなかった、相手からダメージを受けたのだ。
これ程、屈辱的な事はない。
自身の手を見ると、流血していた。
ますます、頭に血が昇る。
「もう、迷いはしない。ヘレス、君をそうさせたのは僕の責任だ。僕が倒してみせる」
「なら、俺は…!」
エイブルはヘレスに対峙し、アルドはトレートルへと対峙する。
互いに過去への因縁がある二人の戦いが始まろうとしていた。
すると、
「面白くないな。そういう風に前向きに来られるのを見ていると、虫酸が走る…」
トレートルが手を向けていた。
「アルド君!」
エイブルが何かを察知した時には、もう手遅れだった。
「え?」
アルドは、胸を貫かれていた。
「がは…」
血を吐き出しながら、膝から地面に崩れ落ちる。
トレートルからは、魔力を凝縮した弾丸のような物が発射され、対応する間もなく、アルドの胸を貫いたのだ。
(こんなとこで…死ぬのかよ…。フィルゼン…すまねぇ…)
「【狩る者】ッ!!」
エイブルが踏み出そうとした瞬間、足を同じように貫かれ、腕も同じように射抜かれていた。
「トレートル…!」
流石のヘレスも思うところがあったようだ。
明らかに蚊帳の外だったトレートルが邪魔だてしたのだから。
「ヘレス、思ったよりも時間が掛かりすぎた。早く終わらせるといい。俺は、ちょっと用事がある」
トレートルはそう言い残して、姿を消した。
「う…ぐっ…」
流石のエイブルも、四肢を撃ち抜かれては、抵抗する手立てが残ってはいなかった。
「エイブルよ。せめて、一撃で葬ってやる」
望んだ仇討ちではない。
真っ向から、エイブルを仕留めてこその復讐だった。
だが、それは計画外のこと。
ただエイブルの始末が含まれているだけの事だった。
「ヘレス…。僕は君のお姉さんを心から慕っていた。これだけは…信じてくれ…」
「…そうか」
(ホープ…すまない。後は、あの子達に任せるとするよ…。はは…、またフリッシュに何か言われるかな)
エイブルは、最後の笑顔を向ける。
ヘレスは、エイブルの首を撥ねた。
舞い上がったエイブルの帽子は、まるで天に昇るかのようにどこまでも高くーー。
第二章~EPISODE31【絶対絶命】
「急ぎ負傷者を!」
「こっちだ!瓦礫に人が埋まっているぞ!」
「シルワさん達は!?」
爆風から生き延びたアルバ王国騎士団の騎士や兵士達は、人々の救助にあたっていた。
しかし、統率者が居ない状態で行動が続き、パニックに陥っていた。
「一体…何がどうなって…」
混乱もするはずだ。
突如として、アルバ王国を襲った大爆発。
対応出来るわけがない。
生き延びた事が奇跡と言える。
「ハース!アルドさんも居ないぞ」
ハースと呼ばれた兵士の元へ、生き残りを確認していた兵士が駆け寄って来る。
「本当なのか、ケイン。アルド隊長が?まさか…爆発に巻き込まれたのか…?」
ケインと呼ばれた兵士は、焦った表情で首を縦に振る。
彼ら2人は、アルドの直属の兵士であり、訓練兵時代に手ほどきを受け、アルドを慕っている。
行動も多く共にしていたため、不安が増すばかりだ。
だが、ハースは決意を固める。
「…今は生き残りがいないか捜そう。出来ることをするんだ!アルド隊長なら、そうする」
「そうだな!」
流石は、アルドと行動を共にしていただけの事はある。
他の兵士達にも声を掛け、捜索に出ようとした時、爆発音のようなものが響き渡った。
「戦闘…?襲撃者かもしれない!何人か付いて来てくれ!行くぞッ」
ハースとケイン他5名は、戦闘音が鳴り響く場所へと急行した。
※
パチ、パチ、パチ。
ゆっくりとした動作で、トレートルの乾いた拍手が鳴る。
それは、アルドに対しての賞賛だ。
アルドはというと。
「くそ…」
実力差が開いているとはいえ、まだ生き残っていた。
アルドが決死の抵抗を見せている訳ではなく、トレートルが分析しているからだ。
「中々、見所がある。魔力の扱いも、成長次第ってところかな」
「なに?」
「どうだい?俺たちの仲間にならないか?」
トレートルは、アルバ王国を攻略しろと、パールスに命じられてはいる。
そもそも、人員を確保する命は受けてはいない。
それは別の人間の仕事だ。
しかし、パールスの見立てでは、幹部の何人かは命を落とすと確信している。
パールスが伝えた訳ではないが、見込みがある者をわざわざ殺す必要がないと判断したのだ。
「ふざけるなよッ!」
アルドは、地面を蹴り、トレートルの懐に踏み込んだ。
短剣で斬り付けるのかと思いきや、素振りだけでトレートルへ体当たりをしてみせる。
体勢を崩したところで、ようやく短剣を振り抜いた。
仰け反った体勢にも関わらず、トレートルはゴムのように体がしなり、地面に両手を付けた状態でかわす。
普通であれば、短剣を振り抜いた時点で勝敗は決する。
だが、相手が相手。
容易にはいかない。
トレートルは、バク転をしながらアルドを蹴り上げた。
アルドも反撃が来ることを予想していたため、腕に魔力を巡らせ、受けたと同時に後ろへ飛んでいた。
そのお陰で、衝撃は多少ではあるが、受け流せていた。
びりびりと衝撃が腕に伝わる。
魔力を巡らせ、防いでいなければ、確実に腕は粉砕。
悪ければ、ちぎれ飛んでいただろう。
冷静さを欠いていると思われたアルドであったが、集中力は凄まじく、常に相手の攻撃を予想し、行動していた。
「殺すのは惜しいけどな〜、どう思う?」
ヘレスにトレートルが視線を向ける。
「私に聞くな…」
ヘレスは何かを察知し、視線をトレートルから外すと、矢がトレートルの肩に突き刺さった。
「痛いな~。撃ち落としてよ」
「どうやら、増援みたいだな」
トレートルは、矢を抜くとそこからは血が溢れ出す。
「アルド隊長!」
「ハース!ケイン!無事だったのか?」
「アルド隊長も…ご無事で!あいつらが襲撃者…ですか?」
ハース達は、アルドを囲むようにして陣形を組む。
アルドが襲われていると遠目から判断し、先制攻撃ともいえる矢の一撃は、トレートルの右肩に命中していた。
ケインは、倒れていたシルワ達を発見し、駆け寄ろうとするが、それをアルドが制止する。
「ケイン、あの3人は既に殺られた。陣形を乱すな」
「しかし…まだ生きているかも…」
「お前の気持ちは分かる。俺だって信じたいさ。だが、今はアイツらをどうにかする」
ケインの生きているかも知れない。
この気持ちは分かる。
しかし、アルドは無惨に殺された光景を目の当たりにしている。
今は、すべき事をするしかない。
人数は、こちらが有利だが、実力は2人と言えど、圧倒的に上だ。
だが、アルドは勝つための思考を巡らせていた。
トレートルは、矢を肩に受けた。
魔力を全身に巡らせているのであれば、サイシンの鉄甲斬を防いだように、矢は弾かれるはずだ。
温存している可能性はあるが、魔力防御が出来ない程、枯渇している可能性が高い。
となれば、ヘレスに集中出来る。
「トレートル。奴は気付いたようだぞ?」
「みたいだね」
「お前は魔力を回復させておけ、後は私がやろう」
「ほいほい」
ヘレスは、背負っている斧に手を掛け、前に出る。
トレートルは、魔力を回復させるために、後方へと飛び退いた。
「どうやら、あいつが相手するらしいな。いいか、油断するなよ。陣形は対応陣形でいく」
「「はっ!」」
アルドを中心に、ハースとケインが前に出て、剣を構え、後方には2人の支援兵。
アルドの後ろには、弓兵が3人位置につく。
対応陣形。
あらゆる攻撃に備え、防御を固める陣形。
訓練と実戦を経て、会得した連携。
これであれば、勝機はある。
「行くぞッ!」
アルドの合図で、ハースとケインが剣を引き抜いて走り出した。
すかさず、支援兵は、【ピオリム】ですばやさを上げ、【スクルト】で防御力を高め、【バイキルト】で攻撃力を向上させた。
アルド達にとっては、ヘレスの実力は未知数。
先制攻撃で様子見だ。
「雑兵が相手になる訳ないだろう」
ヘレスは、突撃して来る2人をまとめて、始末しようと斧振り抜いた。
しかし、2人は間合いに入る直前で、左右に分かれ飛んだ。
「む!?」
ヘレスは、魔力を全身に巡らせ、防御を固めた。
分かれた2人の後方からは、【ダークネスショット】が放たれていたのだ。
体勢を整える隙を与えず、2人はヘレスの懐に入り込んでいた。
「「【はやぶさ斬りッ!!】」」
同時にとくぎを発動させ、【はやぶさ斬り】を浴びせるが、ダメージはない。
「小癪な!」
斧でなぎ払おうとしたが、頭上からは矢が降り注ぐ。
連携攻撃は、ヘレスに体勢を立て直す暇を与えない。
「絶え間なく攻撃しろ。魔力防御だって、完全無欠じゃない。必ず綻びが出来る」
「了解!」
弓兵による矢の雨に、支援兵による攻撃呪文による後方支援。
接近を許さない、前衛。
まるで、まとわりつく攻撃だ。
次第にヘレスの頭に血が登っていく。
冷静さを失えば失うほど、アルドの思うツボだ。
絶え間ない攻撃は、確実にヘレスの魔力を削り取っていく。
ヘレスに取っては、纒わり付く2人が厄介過ぎる。
振り払おうにも、予想していたより、動きが素早い。
こちらが、攻撃をする前に避けられてしまう。
フェイントを混ぜて、攻撃しようともしたが、避けられるのだ。
これが、ハースとケインが身に付けた観察力だ。
相手の動きを瞬時に判断し、攻撃をかわす。
毎日訓練に明け暮れていたからこそ、出来る芸当だ。
ヘレスの一撃が仮に当たったとして、助かる見込みはないだろう。
だが、当たらなければ、死はない。
トレートルは、事の成り行きを魔力を回復させながら見守っていた。
というよりも、鼻歌まで奏でている。
ヘレスが負ける訳がないという絶対的自信があるからだ。
「行くぞ、ケイン!」
「おう!」
ハースは、剣に炎を集中させ、カインの剣には稲妻が収束する。
「【かえん斬り】!」
「【ギガスラッシュ】!」
ドンッ。
地面に亀裂が入る程の衝撃だった。
それは、ヘレスが踏み込んだ音だった。
ダメージを顧みず、怒りの一撃が繰り出されようとした。
2人はそれを見逃す程、甘くはない。
攻撃を即座に中断し、飛び退いて見せた。
すると、斧は空振り。
怒りの一撃は、掠りもしなかった。
「そう来ると思ってたぜ!」
ケインが再び、攻撃を仕掛けようとした時、異変に気付く。
足が動かないのだ。
すると、地面に頭から落下していた。
「なんだよ…これ…は?」
目を疑った。
視線の先には、自身の下半身だけが立っている。
上半身と下半身が綺麗に真っ二つになっていたのだ。
気付いた時には、既に意識はプツリと事切れていた。
先程の繰り出された斧は、触れずしてケインを両断していたのだ。
魔力の応用である。
自身の刃に魔力の刃を形成し、リーチを伸ばしていたのだ。
今まで当たらなかった攻撃の範囲でかわしたため、魔力で形成された刃が捉えてしまった。
「よくもケインをっ!!!」
ハースは激昂し、剣を振り上げた。
「よせッ!ハースッッッ!!!!!」
アルドの叫びは、既に遅かった。
「…え」
ハースの背中には、弓兵が放った【さみだれうち】が容赦なく突き刺さる。
激昂した事により、ハースは自身の立ち位置がヘレスと重なっている事に気付いた。
射線上に出てしまったのだ。
援護のために放った攻撃が、ハース自身の首を締めた。
視線を上げると、斧が振り下ろされる直前だった。
「…アルド隊長…」
ハースはアルドへ手を向けたが、容赦なく斧は振り下ろされ、頭から潰れ、地面の染みになってしまった。
「貴様ァッ!!!」
アルドは、前に出るが、ヘレスはアルドの元へ急接近していた。
「死ね」
アルドは咄嗟に判断する。
魔力防御でさえ、この攻撃は防ぎきれない。
選択したのは、回避。
ヘレスの斧での薙ぎ払いを地面に伏してかわしてみせた。
「お前らは逃げろ…?」
撤退の指示を出し、振り向いた時には、弓兵も支援兵も胴体が真っ二つに切断された状態で、地面に転がっていた。
「避けなければ、共に死ねたものを…」
その言葉は、アルドを追い込んだ。
ヘレスは、薙ぎ払いで魔力による斬撃を放っていたのだ。
アルドは地面に伏して助かったが、後方にいた兵士達は絶命してしまった。
「うおおおおッ!!」
アルドは足払いを浴びせるが、ヘレスは岩のように微動だにせず、ダメージを受けたのはアルド自身の方だった。
ヘレスは、アルドの腹を踏み付け、斧を振り被った。
「トレートルの奴は、お前を引き入れようとしたようだが、力無き者にこの先、生きる未来などない。ここで死ね」
絶対絶命。
「くそぉぉッ!!!」
目を瞑り、死を覚悟した。
アルドも命を散らすのか。
第二章~EPISODE30【騎士として】
剣と剣の激しいぶつかり合い。
激戦が繰り広げられていた。
アルバ王国騎士団、カラ。
そして、【|黒不死鳥《ハルファス》】幹部、プティーである。
互いに様子を探りながら、剣を交えているが、油断は出来ない。
「ただの襲撃者ではないようだな」
「わたしもびっくりさ〜。アルバ王国騎士団にも、実力者がいるなんて思わなかったから」
「随分と嘗めた襲撃者だな」
「事実さー。【不死鳥】とかナルゼだったら、まぁ相手になるかもだけど…」
互いに距離を取り、構え直す。
カラは、右手の剣をプティー首に重ねて見せた。
「アルバ王国の戦力は、その2人だけではないと知れ」
アルバ王国騎士団の戦力は、その2人だけではない。
そう思っているからこそ、プティーの発言に腹を立てていた。
「そう怒んないでよ。君の二つ名に失礼かと思ってさ~。気を遣ってあげたんだよ?」
「なに?」
カラは剣を下ろす。
自身の二つ名を知っている者が、ナルゼ以外に存在するとは思いもしなかった。
つまりは、カラの過去を知る人物でもあるという事だ。
「【国王殺し】のカラって、貴女の事でしょ?」
「貴様、それをどこで…」
有り得ない。
カラの二つ名を知る者は、ナルゼ以外に存在しない。
するはずがないのだ。
アルバ王国騎士団結成よりも前、ナルゼにしか話した事がない。
ナルゼが誰かに話すような事はしないはずだ。
「そんなの、見れば分かるよ。緩やかな立ち回りに流れるような剣さばき。そんな剣術、君しかいないからね」
プティーは、カラの戦い方を見て、今は失われた剣術だと感じ取っていた。
誰かに認識される。
それは誇らしい事ではあるが、カラにとっては触れられたくない過去であった。
※
ナルゼと出会う前、カラはアルバ王国と敵対していた国、ホルゲン国に仕えていた。
ホルゲン国は、裕福な国で、何不自由なく、過ごせる国だった。
恵まれた環境であったと言える。
しかし、民の平和は、全て裏で暗躍する者達によって保たれていた。
略奪に暗殺。
それによって、もたらされた平和だった。
カラはそれを知るまでに時間は掛からなかった。
「利益の為に、罪なき人を手に掛けろ…と?」
「聞こえなかったのか?カラよ。近くの農村を襲い、殺せと言っている。筋書きは、こうだ」
ホルゲン国王は、聞きたくもない筋書きを語り始める。
「我らが愛する民達は、アルバ王国の宣戦布告とも取れる侵略行為によって虐殺。そうすれば、大国ゼバンも喜んで我らに味方するであろう。明日を生きるのであれば、それが最善の策だろう」
「王よ、お考え直しを。貴方はそのような考えをする人ではないはず…」
「余の命令を拒むか?」
「くっ…」
カラは、騎士団長として、王のため、民のために身を粉に尽くして来た。
その信頼していた王に、裏切りとも言える言葉を聞き入れる事は出来なかった。
ましてや、守るべき民を手に掛ける事を容認出来るはずもない。
「貴様も余に尽くす者であれば、理解出来る事だと思ったのだがな」
国王は、片手を挙げると、影からホルゲン国の闇とも言える暗殺者や騎士達が姿を現し、カラに刃を向けた。
その中には、カラの部下達もいた。
王がこのような命令に躊躇いもないのは、今までそうやって都合の悪い存在を消していたからだろう。
「我が王よ。最後に1つだけお聞かせ願いたい。民は貴方の何なのですか?」
「言うまでもあるまい。この国が繁栄するためだけの家畜であろう」
カラは、思い返す。
倒して来た敵達の言葉を。
「悪魔に魂を売り渡した…愚か者共め…」
戯言だ。
カラは気にも留めていなかったが、今ならその意味がよく理解できる。
悪魔に魂を売り渡したと揶揄される理由も。
「私は…ホルゲン国の騎士としてではなく、己の意思で貴様らを殺す…ッ!!」
剣を抜くと同時に、王の首を撥ね、ただ感情のままに剣を振るい、全てが終わる頃には、血で染まっていた。
ホルゲン国は、崩壊し、闇を知らぬ民達は、困惑し、滅びの道を歩んだ。
そして、カラはホルゲン国の騎士という肩書きを捨て、兵を募っていたアルバ王国騎士団へ士官した。
※
「私は、【王殺し】…。だが、今はアルバ王国騎士団の騎士だ。襲撃者よ、貴様の剣に敬意を評し、この剣を持って相手する」
カラは剣を下ろしたまま、プティーへゆっくりと歩き始めた。
罠。
プティーは、そう確信していた。
構えを解きながら、向かって来るという事は、カウンター攻撃しかない。
であれば、反撃の隙さえ与えず、仕留めれば済むだけの話だ。
プティーは、カラが間合いに入るまで、その時を待つ。
一歩、二歩。
間合いが詰まり、その時が来る。
プティーが踏み込んだ。
狙うは、首。
避けたとしても、対処は出来る。
カラは未だに動かない。
歩き続けているだけだ。
プティーは、振り抜いた刀を手放し、地面に伏せた。
右肩へ斬撃を浴びていた。
「かわすか…」
プティーは、直感でカラの攻撃を察知していた。
カラは、間合いに入った時点で、プティーよりも先に攻撃を仕掛けていたのだ。
歩き続けていたのは、作り出していた幻影。
本物は、別角度から攻撃を繰り出していた。
プティーは、逃れるために足払いをするが、手応えはなく、カラは煙のように姿が歪んだだけだった。
視覚で捉えることが出来ない、カラの攻撃は、プティーの身体を掠めていく。
実体が無ければ、反撃すら与える事は不可能に近いだろう。
だが、プティーは目を閉じ、空気の流れから、カラの斬撃を右腕に纏わせた魔力で弾く。
距離を取ったプティーは、自ら放り投げた刀に目を向ける。
「前言撤回するよ。貴女も強い」
素直な気持ちだ。
嘗めていなかった。
と言えば、嘘になる。
その場に存在しているはずが、存在していないとう矛盾。
作り出された幻影とはいえ、ここまで厄介な相手だと思ってもみなかった。
「魔力防御で防いだのは、褒めてやる。だが、武器を失った貴様に反撃する手立ては残っていまい…。次で最後だ」
「反撃…ね。それはどうかな」
プティーは、拳を握り構える。
カラの幻影は、プティーへと再び、歩き始めた。
固有スキル【幻影者】。
幻影を残し、自らの実体を消失させる事が出来る。
カラの幻影が再び、プティーの間合いに入った。
プティーは、回し蹴りや連撃を繰り出すが、カラの作り出した幻影には効果がない。
すると、稲妻が迸る。
だが、カラの幻影はピクリとも動かない。
「これで、終わりだ」
電撃を纏った斬撃が繰り出されようとしていた。
「それを待ってたよ」
「何!?」
プティーは、抜刀の体勢。
しかし、刀はないが、黒き輝きがプティーの手元に収束して行く。
空間が歪む程に。
「くっ…ギガスラッシュッ!!」
カラは、ギガスラッシュを放つ。
「暗黒連撃」
抜刀と共に、黒き輝きは刃を形成し、鞭のようにしなる。
繰り出される連撃に、カラの放ったギガスラッシュは打ち消され、実体を消失させたはずの体へと触れた。
禍々しく輝いた黒き刃は、カラの作り出した幻影をも払い、肉体を切り裂いていく。
肉を抉り取り、鮮血が地面にこびり付いた。
カラは、体を震わせながら、立ち上がろうとした。
だが、黒き刃で受けダメージは深く、致命傷である。
本来であれば、痛みに耐えきれず、絶叫し、そのまま死に至るだろう。
それでも抗うのは、カラの意地だ。
「【幻影者】を破る…とは…がはっ」
今まで、破られたことの無い、【幻影者】。
悟る。
破られた時点で、勝敗は決していたと。
「暗殺なら、その能力は強いかもね」
プティーは、気付いていた。
防御した時、カラの一撃に触れた。
つまり、実体は消失していないと確信した。
でなければ、攻撃はすり抜ける。
すり抜けないということは、攻撃の瞬間だけ実体が存在するという事だ。
もし、これが正面からの戦いではなく、暗殺であれば負けていたのは、プティーの方かも知れない。
「…って、もう聞こえてないか」
プティーは刀を鞘に納め、その場を後にした。
カラは遠のく意識の中で、ナルゼを思い浮かべた後、静かに目を閉じたのだった。
第二章~EPISODE29【意地】
「へぇ。案外、やるものですね?」
爆発から生き延びた、テティ。
襲撃者であるソルフと、激戦を繰り広げていた。
「はぁ…はぁ…」
テティは、息を上げながらも、ソルフに対峙していた。
槍を構え、攻撃を仕掛けようとしているが、いくらやっても、攻撃はいなされ、かわされる。
テティが振るう槍に対して、ソルフは背負っている鎌に手を掛ける事はなく、素手のみでテティを相手にしているのだ。
「貴女に敬意を表し、名乗るとしますよ。私の名は、【|黒不死鳥《ハルファス》】幹部、ソルフ。貴女は?」
「【不死鳥の騎士団】テティ…」
ソルフは、テティの名を聞いて、首を傾げる。
何か思い当たる名前だったからだ。
「テティ?もしや、【ケリム傭兵団】の」
テティは、ハッとした表情だった。
「な、なぜ、その名前を…?」
テティは、【傭兵団】の生き残りだ。
父が頭領であり、その娘。
ケリムと言うのは、昔存在した国の名前であり、名乗る事はない。
知っている者がいないと言うことだ。
「クク…。妙な巡り合わせですね。鹿をモチーフにした国旗が飾られていましたし、それに…」
ソルフは、指を差す。
「テティ…テティ…って、貴女の名前を呼んでいたものですから」
「お前…ッ!!…皆を…!!!!」
決して、忘れる事が出来ない忌まわしき記憶。
【ケリム傭兵団】は、何者かによって滅ぼされた。
テティは偶然、森へと薪を取りに行っていたのだが、帰って来た時には、全員が屍へと成り果てていた。
そこへ、通り掛かったサイシンへて拾われ、アルバ王国で育った。
傭兵団を殲滅した存在が、目の前に現れるとは、思っていなかった。
普段から、前向きな性格の彼女からは、想像出来ない程の憎悪が滲み出る。
復讐に囚われない生き方をする。
そう心に誓ったが、いざ、仇が目の前にいるとなると、奥底に抑えていた感情が一気に爆発した。
「私も、多少は楽しめましたし、貴女も楽しませてくれるのでしょう?」
「貴様ッ!!!!」
テティは、怒りのままに槍を突き出し、ソルフを殺そうと槍を振るう。
「クク…その調子です。私を楽しませて下さい」
「ほざくなッ!!【一閃突き】!!!」
槍を引きながら、魔力を集中させ、一気に解き放ち、ソルフの心臓を目掛けて穿つ。
だが、【ケリム傭兵団】は、国々を股に掛ける実力者揃いの傭兵団。
それを、一人で滅ぼしたとあれば、実力は計り知れない。
渾身の一撃をソルフは、避けるどころか、指で摘むようにして、槍を受けて止めていた。
「惜しいですね」
「これならッ!」
テティは、飛び上がり、魔力を纏いながら、槍を掲げる。
「【超さみだれ突き】ッ!!!!」
空中から、無数の突きを繰り出しながら、降下していく。
ソルフは、連続で繰り出された突きを片手で全て防いでしまった。
「これでは、虫も殺せないでしょう。もっと楽しませてくれると思ったのですが…」
振り抜いた拳は、テティの腹にめり込み、壁に激突する。
テティは、血を吐き出し、槍を杖がわりに立ち上がった。
先程の一撃で、肋が何本か折れたであろう。
立ち上がるのがやっとだ。
痛みで、我に返り、心を落ち着かせる。
ソルフは、自身の家族を滅ぼした仇だ。
許せない存在ではある。
しかし、テティにはやるべき事があった。
それは、フィルゼンの帰りを、留守を護る事だ。
復讐よりも、フィルゼンの留守を護る事こそが、今、果たすべき役目なのだから。
「こんなに強い奴がいるなんて…、やっぱり世界は広いな。ちょっと悔しい…」
フィルゼンの事が真っ先に頭に浮かんだ。
年下ではあるが、良き友であり、ライバル。
守るべき人がいるからこそ、人は強くなれる。
「どうやら、あんたには勝てそうにないや。でも」
「?」
「一矢…報いてやろうじゃん」
テティの目に覚悟が宿る。
「なら、答えなければ貴女に失礼ですね」
ソルフは、背負っていた鎌に手を掛け、テティへと向ける。
ソルフ自身の意思で、鎌を構える事は珍しい。
心からテティを葬ると決めたからだ。
自身の鎌で葬るに値する。
「【一閃突き…改】ッッ!!!」
全魔力を集中させた、懇親の槍は、魂の一撃とも言える。
ソルフは、鎌を振り上げたまま、制止していた。
攻撃速度がテティが上回っていたのか。
槍はソルフの頭を貫く。
決まった。
ーーしかし。
感触は無く、ソルフの姿が煙のように消えた。
ポタポタッ。
テティは、視線を下に向けると、血が地面に垂れていた。
それは、自身の胴体から垂れているものだった。
斜めに傷が入っていた。
「がはっ…わたしの方が…速かったのに」
テティが繰り出していた時には、まだソルフは鎌を振り上げている状態だった。
「貴女が攻撃した時には、私は既に終わらせていましたので」
理解する。
テティが攻撃したのは、既に攻撃を済ませていたソルフの残像だったのだ。
あまりにも速すぎて、認識が遅れていた。
ぐらりと、視界が歪み、テティは緩やかな時間の中で地面との距離が近付いていく。
(ごめんね、フィルゼン…。約束、守れそうにないや…)
地面に倒れ込み、テティは歪む視界を閉じた。
「こちらは終わりましたが、何でしょう。この気配は」
ソルフは、何処から視線を感じ、見渡す。
だが、どこにも姿が見当たらない。
「油断は禁物ですね」
そう言って、ソルフは警戒しながら、姿を消した。
第二章~EPISODE28【偽り】
アルドが見守る中、シルワ、ライゼ、サイシンの3人とトレートルの戦いの火蓋が切って落とされた。
「行っくよ〜2人とも!」
シルワの合図でライゼは、シルワの真横に立ち、サイシンは2人の後ろへと立つ。
トレートルは、首の骨をコキリと鳴らして、ゆっくりと3人へ向かって歩いて行く。
「すぅーーーー…んッ!」
シルワは、一呼吸で弓を引き、息を留め、魔力を練り上げる。
練り上げた魔力は、右手を通じて矢へと流れ込み、黒き輝きを纏う。
「ダークネスショットッ!!」
とくぎである【ダークネスショット】を放つ。
唸りを上げて、高速で放たれた一矢。
洗練された一撃とも言える。
トレートルは、左手に魔力を集中させ、【ダークネスショット】を避けること無く、素手で掴み取ってみせた。
シルワは、少し驚いてしまう。
自身が保有するとくぎの中でも得意な【ダークネスショット】を意図も容易く防がれるとは思ってもいなかった。
やはり、相当な実力者であると再認識する。
「うおおおおぉッ!」
サイシンは、斧を担ぎながら、突進して来る。
「正面からとは…。吹き飛ばしてあげるよ」
トレートルは、左手に魔力を巡らせ、呪文を発動させようとしたが、直ぐに防御へと移行した。
「ピオリムッ!」
ライゼが高速化の呪文である【ピオリム】を発動させると、突進していたサイシンは急加速。
体当たりをトレートルへとお見舞いする。
弾き飛ばされたトレートルは、宙へと舞ってしまった。
「「バギクロスッ!!」」
息つく間も与えず、シルワとライゼは詠唱。
【バギクロス】を同時に発動させ、竜巻を起こす。
放り出されたトレートルは、切り刻まれる。
3人だからこそ出来る連携だ。
まともに受けたトレートルにとっては、ひとたまりもないだろう。
すると、ライゼは、【バギクロス】を右手で維持させたまま、左手を切り刻まれているトレートルへと向けた。
「【メラゾーマ】!」
左手からは、【メラゾーマ】が放出され、竜巻は赤みを帯びて、爆煙が吹き荒れた。
他の呪文を発動させたまま、他の呪文を発動させる事は、普通であれば不可能だ。
しかし、ライゼのとくぎである、【呪文混合】は、他の呪文を発動させたままでも他の呪文の発動を可能にする。
誰でも出来るものではなく、魔力や呪文に精通し、ライゼが開花させた【固有スキル】だからこそ実現出来る。
【固有スキル】は、誰でも開花する事は可能だ。
自身の力で目覚める者、誰かから継承する者。
様々ではあるが、易々と開花する事はない。
空中からトレートルが落下し、地面にめり込む。
(凄い…流石、アルバ王国騎士団の精鋭。あいつも、タダでは済まないな)
アルドは、息を呑み、この3人が味方で良かったと心から思った。
「さて、一人は片付けた。次は、君の番だよ?」
シルワがヘレスに指を差すと、戦うどころか、心配する素振りも見せず、地面に座り込んだ。
「なら、トレートルを倒してからにするんだな」
「だから、片付け…」
シルワ達は、直ぐに身構えた。
地面にめり込んだ、トレートルが顔を覗かせていた。
「馬鹿な…。副団長の体当たりに【バギクロス】、【メラゾーマ】を受けて立ち上がるなんて…」
ライゼの言う通りだ。
誰が見ても、華麗に決まった連携技。
それを受けてなお、立ち上がるとは思いもしなかった。
「いやー、ビックリしたよ。これが本当の戦いだったら死んでたかも」
体を動かしながら、服の埃を払う。
「本当の戦いだって?」
シルワがトレートルが発した言葉に反応をみせると、トレートルは頷く。
「そうだよー。こんなのは、戦いなんかじゃない。遊びなんだよ。強いて言うなら、準備運動にはなったかな」
トレートルは、ほとんどダメージを受けておらず、3人を相手にして、まだまだ余力を見せていた。
「ねぇ?副団長さん」
トレートルが肩を竦めながら、サイシンへと視線を向けると、体当たりしたサイシンの左肩の鎧が砕け散った。
「なんて、魔力防御してやがる。あの衝撃を受けたのは、むしろ俺だったか…」
サイシンは、魔力を身にまとい、トレートルへと体当たり。
その体当たりは、岩をも粉砕する程の威力だったはずだ。
トレートルは、それさえも上回る魔力防御を展開した事になる。
「次はこっちから、行くよ」
トレートルは、両手に魔力を集中させる。
「【かまいたち】」
トレートルが繰り出して来たのは、魔力を殆ど使わないとくぎ、【かまいたち】だった。
ーーしかし。
トレートルが【かまいたち】を繰り出すと、風圧が地面を抉りながら飛んで来たのだった。
シルワ達は、咄嗟に回避するが、凄まじい程の爆風が吹き荒れた。
アルドは、衝撃に耐えきれず、吹き飛ばされ、壁に激突する。
「【かまいたち】で、この威力かよ…」
アルドは、痛感してしまう。
実力差があり過ぎると。
【かまいたち】で、地面を抉る程の威力となれば、トレートルが保有している魔力量が凄まじいことになる。
回避に成功した3人は、体勢を整えると、トレートルを見失ってしまう。
「消えた…?」
シルワが360度に視線を向けるが、トレートルの姿はない。
「ライゼッ!下だッッ避けろッ!!!」
いち早く気付いたサイシンがライゼへ向かって叫ぶ。
しかし、一歩遅かった。
地面の中からトレートルが飛び出し、ライゼの前へと出現する。
「!?」
顔面を鷲掴みに、トレートルは、全力でライゼを地面に叩き付ける。
魔力防御が間に合わず、後頭部から地面に落下。
その衝撃は、地を割った。
「貴様ッ!!!」
サイシンは、斧を振り上げ、ライゼを救出しようと試みるが、トレートルは、何の躊躇いもなく、ライゼを盾にする。
仲間を斬るわけにはいかず、攻撃の手を止めてしまった。
トレートルは、左脚を振り抜く。
サイシンは、咄嗟に自身の【固有スキル】である【鉄壁防御】を発動させた。
このとくぎは、凝縮させた魔力を身に纏い、防御にも攻撃にも応用する事が可能だ。
このまま、トレートルの左脚がサイシンに触れるのであれば、粉砕するのは、トレートル自身だ。
ボキッ。
鈍い音が全身に広がる。
炸裂した左脚は、サイシンの右腕を木の枝を折るように容易く、へし折ってしまった。
「ぐっ……あああッ」
斧を落とし、右腕を抑えて、地面に蹲る。
「有り得ない…!魔力を纏っていたからと言って、副団長の防御を破る事なんて不可能のはず…っ!!」
シルワの言う通り、アルバ王国騎士団達全員が見ても、同じ反応を示すはずだ。
誰もが破った事のない、鉄壁の防御。
易々と破られる訳がない。
「簡単な事さ〜。魔力の扱い方も使い手次第だ。君らの中では、このオーガが強いとしよう。だが、俺達にとっては雑魚に過ぎないという事だ」
「な…ッ嘗めるなよ…アルバ王国騎士団を…ッ!」
折れた腕を抑えつつ、サイシンは意地で立ち上がってみせた。
「立ち上がったのは、褒めてやる。だが、それでも俺には勝てないな」
トレートルは、首を右に傾けて、無防備に攻撃箇所を晒す。
「何の真似だ…!」
「実力差をはっきりさせようと思ってね。さぁ、自由に攻撃するといい」
「どこまでも嘗めた真似を…!!!」
サイシンは、折れた腕に構わず、自身の魔力全てを解放し、斧へと魔力を集中させる。
「おおおおおおおおおッ!!!」
斧は、輝きを身に纏い、空気が振動する程、膨大な魔力が集中している。
おそらく、触れたものは、塵と化すだろう。
「死んで後悔しろッ!!!鉄甲斬ッ!!!」
サイシンは、宙へと飛び上がり、体を高速回転させたまま、その威力を維持し、トレートルの首目掛けて振り下ろした。
折れた腕でも、人を一人葬るには、十分過ぎる程の威力で、辺りを簡単に吹き飛ばしてしまうだろう。
ーーしかし。
サイシン斧は、トレートルの首へと振り下ろされたはずだった。
サイシンは、横目で何かを捉える。
それが、自身の振り下ろした斧であると、理解するのに、時間は掛からなかった。
目の前に、受け入れ難い事実がある。
トレートルは、無傷で、自身の振り下ろした斧が砕け散ったという事実。
そして、認めたくない事実でもある。
強いなんてもんじゃない。
正真正銘の化け物、規格外の強さという事だ。
「この程度か。じゃ、バイバイ♪」
トレートルの中指がコツンと、サイシンの頭へと触れた。
空間が歪んたように見えたが、そうじゃない。
サイシンの頭が歪んだのだ。
ボコッと腫れ上がったと思うと頭が縮み、その繰り返しの末、跡形も残さず爆散してしまった。
ただ触れたのではない、トレートル自身に残された魔力を中指に凝縮させ、サイシンの頭へ流し込んだ。
魔力が尽きたサイシンに防ぐ術は、残されておらず、【死】という結末を迎えただけのこと。
「言葉を返すよ。残ったのは、お前だけだ。エルフ」
シルワは、後ずさりながらも、全身に魔力を巡らせた。
「これだけの実力差。まだやるかい?」
「襲撃者風情が…調子に乗るなァァァッ!!!」
シルワは、【魔力解放】を発動した。
激昂し、トレートルへと殴り掛かった。
魔力で覆われた拳は、トレートルの顔面へと炸裂し、両手両足を駆使した連撃を浴びせていく。
「2人を倒して、魔力が尽きかけのお前に、わたしが負けるかッ!!!」
3人は、余力をまだまだ残していた。
しかし、魔力が尽きかけのトレートルに対し、2人は命を落とした。
こんなこと、あっていいはずがない。
怒りのままに、拳を振るった。
トレートルが反撃しようとしたのか、右手を伸ばすとシルワが蹴り上げ、回し蹴りを顔面へ決める。
「どんな呪文を使ったが知らないけど触られなければ、何も出来ないだろ!このまま、殴殺されろッ!!!」
トドメの一撃とも言える、拳を振り抜くと、感触はなく、トレートルの姿を見失った。
辺りを見回しても、トレートルの姿は、忽然と消え失せた。
「うぐっ!?」
シルワは、呻き声にも近い声を上げた。
トレートルの右手は、シルワの首を鷲掴みにして持ち上げる。
振りほどこうと、抵抗するが、振りほどくことは出来ず、蹴りを浴びせても、トレートルは首を鷲掴みにしたまま、微動だにしない。
「シルワさん!」
アルドは、駆け寄ろうとするが、衝撃波が目の前を通過し、足を止めてしまった。
「黙って見ていろ」
ヘレスが殺気を放つと、アルドは気圧され、現状を眺めている事しかできない。
「こ…こんな奴に…何でわたしらが…」
「本当に笑ってしまうよ。実力差も分からずに戦いを挑んだ挙げ句、まだ余力を残しているなんて」
トレートルは、呆れた笑いを零す。
「お前達は、強者でも何でもない。弱者の集まりの上でふんぞり返るだけの愚か者だ。地獄を体験しておきながら、何故、死ぬ気で掛かって来ない?」
「ぐっ…」
「教えてやろうか?お前達は、偽りの平和の中で、自身の犯した罪から目を背け、生きていただけに過ぎない。初めから何も成してなどいない」
「そんな事はない!俺たちは、平和を護るために魔物達と戦ってきた!国や街を滅ぼしておいて、平和を語るな!」
アルドが叫ぶと、トレートルがゆっくりと視線を向ける。
「なんだ知らないのか?罪人は罪を償うべきだろう?」
「罪人…だと?」
アルドが息を呑む。
「アルバ王国騎士団は、罪人の集まりだ。【仲間殺し】のサイシン、【少女誘拐犯】ライゼ。それに、【森林破壊】のシルワだったか?」
「わたしら…の…過去を…お前は一体…!」
シルワは、知られたくはない過去をベラベラと話すトレートルの正体に迫る。
アルドからすれば、その二つ名は真逆だ。
サイシンは、義理人情に厚く、正面から仲間にぶつかり、よく相談に乗っていた。
ライゼは、子供達から好かれ、魔法をよく教えていた。
シルワは、森林を愛し、自然保護団体を募って、休日にゴミ拾いなどをしていた。
想像出来る訳がない。
「自身の犯した大罪を棚に上げ、悪を倒し、築いた平和など…偽りだ。真の平和には程遠い」
トレートルが魔力をシルワへと流し込む。
「よせッ!!」
アルドが走り出した瞬間、鈍い痛みが頬に伝わる。
ヘレスの拳が、顔面に炸裂していた。
「うあああ…」
シルワの顔面が流血し、抵抗していた力は弱まり、地面へと落下。
そして、二度と立ち上がる事はなかった。
「ふぅ〜。終わった終わった♪」
トレートルは、軽い口調に戻り、倒れ込んでいるアルドへと近寄る。
アルドは、トレートルを睨み付けていた。
「受け入れられない感じ?でも、事実さ~。この国も滅んで当然。そうは思わないかい?」
アルドは、ふらふらと立ち上がり、短剣に手を掛けた。
「その為に…何をしても許されるのかよ…。あの人達が何をしたか知らねえ。けどな、国や街を滅ぼして、関係ねえ人達を巻き込んで良いのかよ…。てめえらがやってるのは、ただの殺戮だろうが!」
仮に、サイシン達がトレートルのような大罪を犯していたとしよう。
しかし、コイツらがやっている事は、殺戮だ。
平和からは、程遠い。
「なら、君が正しいって事を証明してみなよ?」
トレートルが手をくいっとさせて挑発する。
「やってやらぁッ!!!」
第二章~EPISODE27【仇】
アルバ王国ーー。
「大丈夫か…?」
アルドは瓦礫を退かし、庇ったイルに視線を向ける。
額から血を流して気絶しているようだが、息はしている。
周囲を見渡すと、廃墟と化した街並みが広がっていた。
「一体…誰がこんな事を…」
すると、アルドは空に気配を感じ、目をやる。
「あれは……?」
神々しい謎の生物が宙に浮かんでいる。
その姿は、まさしくアルドの故郷を滅ぼした存在だった。
いても立ってもいられるはずもなく、その生物へ向かって走り出す。
倒すべき仇だからだ。
生物へ近付いたと思いきや、姿がみるみる萎んで行き、視線を向けた先には、白コートに仮面を着けた男と赤と黒の鎧を身に纏うオーガが立っていた。
「おい、今のは何だ!それにお前らは…」
「ヘレス、やっぱり連続使用はキツイよね〜。体が痛い痛い」
「ふっ、トレートル。相手してやれ、あそこに生き残りがいるぞ?」
「んん?本当だ」
トレートルは、ふざけた様子でアルドへ目を向ける。
「これは、お前達がやったのか!」
「そうだよ?」
「あの生物は何だ!」
「それは、教える義理はないなぁ。だって、君はここで死ぬのだから♪」
トレートルは、くねくねと体を揺らす。
「ふざけやがって…。俺の故郷を滅ぼしたのは、てめぇらだな」
「故郷?」
トレートルが聞き返すと、アルドは短剣を引き抜く。
「最南端の街、ガホウっていう街を知っているか?13年前…俺の故郷はその生物に滅ぼされた。アレもお前らがやったのか!?」
込み上げる怒り。
13年前、アルドから全てを奪った仇が目の前にいる。
大切な妹であるルイスを奪った原因が目の前にいるのだ。
「ガホウ…ねぇ?あー!あー!思い出した思い出した。大国ゼバンに植民地にされ、名も奪われた敗戦国家の生き残りかー。あんな街、無くなったって誰も困りやしないさ」
「何だと…!」
トレートルは、更に言葉を続けた。
「それに、いい練習台だったよ。あの街は」
間違いない。
こいつらが、自身の故郷を滅ぼした張本人だと。
頭に完全に血が上る。
たった1人の家族を奪われ、愚弄。
腸が煮えくり返る程の衝動。
「殺してやるッ!!」
アルドは、頭に血が上り、我を失っている。
冷静さを欠いた状態で、勝ち目がある相手ではない。
踏み込んだ瞬間、アルドはバランスを崩して、後ろへ倒れそうになる。
「アルド、慌てるんじゃないよ」
ゆっくりと視線を向けると、そこには、遠征騎士団改め、アルバ王国騎士、シルワがアルドの襟を掴まえ引き止めていた。
「離して下さい、シルワさんッ!あいつらが俺の故郷を!!」
「まぁまぁ落ち着きなよ。故郷を滅ぼされたのは分かる。だが、冷静さを欠くな。無鉄砲で勝てる相手じゃないよ」
普段からお気楽口調のシルワが珍しく真剣な表情で諌める。
アルドは、その表情を見てすぐに冷静さを取り戻した。
自身よりも実力者である、シルワが警戒している様子を見れば、嫌でも冷静になる。
「敵にしては、大胆な事をしますね」
続いて駆け付けて来たのは、ドワーフのライゼだった。
「ふん。敵ならば倒すだけだ」
アルバ王国騎士団副団長のサイシンまでも駆け付けて来ていた。
アルドにとって、心強いなんてものじゃない。
アルバ王国の主力が3人も来たのだ。
怖いものなんてない。
「ふっ。遠征騎士3人か。トレートル、手を貸すぞ?」
ヘレスは、斧に手を掛けると、トレートルは首を横に振る。
「いらないよ、君の出る幕じゃない。魔力をほとんど使ったけど、3人程度なら全然大丈夫」
トレートルは、余裕な立ち振る舞いで前に出る。
「わたしらも嘗められたものだねー。なら、こっちは遠慮なく3人で相手するよ」
シルワ、ライゼ、サイシンは魔力を体に巡らせるのだった。