EPISODE17、【変革】
「がは…!こんな奴らに…俺の【計画】が…」
狩る者は力無く地面に倒れ、立ちはだかる大国ゼバンの軍勢を睨み付ける。
「やっと倒れたか…」
大国ゼバンの騎士達は、冷や汗を拭う。
軍勢1万に対し、数時間にも渡る激戦。
1人を仕留めるのに手を焼いた。
「くそぉ……」
狩る者の体は、限界が来たかのようにして、ボロボロと崩れ去った。
※
ーー???
研究室のような場所で、大きな水晶に世界各地の様子が映し出されていた。
それを眺めるのは、白き鎧を身に纏い、背中に大きな赤き鎌を背負う男。
「随分と手こずったじゃないか?」
男が傷だらけの少女に声を掛ける。
「えぇ、まぁ」
狩る者が応援を要請したが、予期せぬ足止めを受け、三日三晩に渡る戦闘を繰り広げていた少女は、静かに溜め息を零す。
「仕留めたのかい?」
「残念ながら決着は…」
「ふむ。あの子も強いからねぇ」
男は、兜を脱ぐと顔が明らかとなる。
「【狩る者】は負けたのですか?」
「1万の軍勢相手に、半数以上削って力尽きたよ」
「中々やるものですね」
「全くだ。所詮、俺の過去を模倣した分身体に過ぎないけどね」
男は顔を抑えて照れ臭そうにする。
「恥ずかしくて見てられないよ」
「貴方自身ですよ?」
「まぁね」
男は液体が入っている壁ガラスを見る。
「【大いなる計画】は、順調に事が進んでいる。それに器も見つかったしね」
「【災厄の子】ですか…」
「そう。フィルゼンが成長すれば、計画は次の段階に移れる」
【災厄の子】。
かつて世界に災いをもたらした、とある大陸に突如として現れる謎の子供。
膨大な魔力は計り知れない。
男が言うには、それがフィルゼンだという。
「万が一に備えて、この子にも働いてもらわないとね」
液体が入った壁ガラスには、金髪の少女が浮かんでいた。
ゴポゴポゴポゴポ…。
(フィルゼン…?)
※
大国ゼバンが【狩る者】を仕留めた後、各地で出現した魔物の軍勢は消失。
戦争を集結させたとして、大国ゼバンは改めて各国からの支持を集めた。
その中でも、
ホープの率いる組織や【遠征騎士団】が残した功績は人々に讃えられた。
【遠征騎士団】が拠点とする名も無い国は、大国ゼバンに認められ、名を返却する。
アルバ王国と。
※
【遠征騎士団】団長、ナルゼの手記より。
3年という平和な月日は流れ、あの魔物達との戦争以降、世界は変革を遂げた。
ホープさんの率いる組織は、連合国筆頭である大国ゼバンと同等の権力が付与された。
そしてアルバ王国。
数年前の戦乱の時代に、大国ゼバンに敗れた小国。
侵略され何もかも奪われたが、先の防衛戦で無事に返却された。
大国ゼバンは納得のいかない様子ではあったが、これもホープさん達のお陰だ。
元々、【遠征騎士団】が結成されたのは、大国ゼバンに奉仕するため。
腑には落ちなかったが、おかげで世界の状況について色々と学ばせてもらった。
これでようやく、俺達も我が王を守り抜く事に専念出来る。
…のだが。
※
「ナルゼ団長!大変です…!」
騎士の一人が日記を記していたナルゼの元へ駆け込んで来ると、頭を抱える。
「またか…」
「姫様が脱走したぞ!!」
ナルゼが少しだけ頭を悩ませているのが、仕えている王女の事である。
大国ゼバンに敗北して以降、仕えていた国王陛下が病に伏し、国を統治するための重役を担うのが、10歳になったばかりの姫なのである。
「姫様〜!!」
「どこへ行かれたのです!!」
城中を元気いっぱいに走り回り、王室から居なくなる事は多々ある。
「弱ったな…」
ナルゼが頭を悩める理由は、逃げ出したら簡単には捕まらない。
自由奔放、縦横無尽。
兵士や騎士達が予測出来ない程だ。
たった一人を除いて。
しかし、その頼れる人物は、遠征中なのである。
「シルワ、ライゼ…。君たちでも駄目か」
今回、お目付け役として遠征騎士団の中でも精鋭の2人が付き添っていた。
「それが一瞬だったんだよー。目を離した瞬間にコレだもん」
「椅子に座ろうとした瞬間でした」
2人は落ち込む。
「うぉー!?はなせーー」
「はいはい。王室に行ったら離しますよ」
ナルゼや騎士達が捜索している元へ、赤髪の少女が姫を抱き抱えて姿を現した。
「久しぶり。相変わらず、姫様は元気だね」
「おかえり、フィルゼン」
フィルゼン、16歳。
あの魔物達との防衛戦以来、【不死鳥】という異名で呼ばれる事となった。
アルバ王国を代表する騎士へと成長した。
そして、時代は流れるーーー。