第二章~EPISODE33【未来を覗く者】
「………」
誰だ?
誰かが…。
「……ブル」
この声は…。
「エイブル」
フィンツ…?
「聞いているのかい?」
「ごめん、少し考え事してた」
「はぁー…。参謀なんだから、しっかりしてよ」
ここは?
ああ、僕は【未来へ繋ぐ者達《テスタメント》】の基地にいたのか。
何か長い夢を見ていた気がする…。
「もしかして、また【見た】のかい?」
【見た】。
フィンツがそういうのは、僕の能力の事だろう。
【未来を覗く者】。
この能力は、その名のとおり、未来を先読みする事ができる。
他の人から見れば、便利なものだろう。
何故なら、未来が見えるのだから。
先に未来を見た後で、結末を変える事ができる。
しかし、未来なんて簡単に変わるもんじゃない。
それに、この能力は自分が意図的に発動はしない。
唐突にやって来るのだ。
偏頭痛のように。
そして、この能力が発動すると、僕が生きている限りの未来を追体験する。
これから起こりうる結末を。
だが、意識が戻った時には、夢から覚めたように、朧げな記憶だけが残る。
「うん…。平和のために、一歩踏み出した僕達だけど、これから先…多くの命が失われる気がするんだ。僕やホープ、フィンツも…命を落とすかもしれない」
これ程、嫌な予感をした事はない。
これから先、何かが僕達を襲うかもしれないのだ。
不安を募らせていると、フィンツは僕に真剣な眼差しを向ける。
「エイブル。これから先、何が起こるか分からないなら、ボクらが出来る事を精一杯、やれば良いんだよ」
「でも…僕は君達を…」
そう…。
失いたくないんだ。
これ以上、仲間を。
「なら、約束してくれ。もし、この先、ボクやホープが命を落とす事があっても…、前に進み続けると」
死ぬのが怖くないのか…。
いや、僕が臆病なだけだ。
フィンツは、心から信じているんだ。
世界を平和にする事を。
なら、応えない訳にはいかない。
「約束する…」
だが、フィンツは【狩る者】との戦闘で命を落としてしまった。
情けなかった。
いくら、未来を先読み出来ても、覚えてなければ意味がない。
僕は受け入れるしかなかった。
フィンツの死を。
でも、僕は約束した。
この約束だけは、絶対に違えない。
※
「よいしょっと。エイブル様、この本、ここに置いておきますね」
「ありがとう、ヨルカ」
僕は、護衛であるヨルカが持って来てくれた本を手に取り、読み始めようとすると、ヨルカが僕の机を覗き込んで来た。
「どうしたんだい?」
「いえ…。幸せな写真だなって」
僕の机には、ホープやフィンツが写っている写真に目を向ける。
懐かしい。
組織結成時に撮った写真だった。
「もうだいぶ前の写真だし、良かったら今度は皆で撮ろうか」
「はい♪ぜひ撮りましょう撮りましょう!」
ヨルカは笑顔を向ける。
その時、僕は知らなかった。
ヨルカが裏切るなんて。
叶わぬ夢となった。
フィンツ、ヨルカ…。
前へ進む度、僕の前から人が居なくなってしまう。
昔からそうだ。
どんなに信じても、願っても…。
僕の前から、大切な人達は去ってしまう。
あの人も。
※
「エイ…ブル…!」
「師匠…!お気を確かに…!!」
僕の傍らには、瀕死状態の師匠の姿が。
回復呪文を受け付けない呪い。
どうする事も出来なかった。
「お前が…やるんだ…でなければ…世界は…!」
「師匠…! 」
「最後の頼みだ…世界と…ヘ…ヘレスを頼む…」
「師匠…?師匠!そんな、目を開けて下さい!師匠…」
ヘレス。
師匠の妹だ。
ヘレスに何て伝えれば…。
何て伝えれば…!
言葉が見付からない。
僕は結局、その事から逃げてしまった。
責め立てられても、文句は言えないだろう。
※
「…エイブルさん、大丈夫ですか?」
僕は我に返った。
「アルド君…」
慌てて、自身の首を確認した。
切断されていない。
さっきのは…そうか…。
ずっと前に見た未来は、この時だったのか…。
なら、まだ変えられる!
ヘレスは、肩から血を流している。
という事は、この後、狩る者の不意打ちを受けて、僕もアルド君も命を落とす。
そうはさせない。
もう二度と、僕の前で何も失わせてたまるものか。
「アルド君、狩る者が動きを見せた瞬間、僕に触れるんだ。いいね?」
アルド君に耳打ちをする。
「…分かりました」
「面白くないな。そういう風に前向きに来られるのを見ていると、虫酸が走る…」
狩る者が手を向ける。
来た。
アルド君は、僕に触れた。
その瞬間、魔力防御を展開し、狩る者が放った魔力を凝縮させた弾丸のような攻撃を弾き飛ばした。
「何!?」
狩る者は、驚いたようだ。
防がれるはずもない攻撃を防ぐ事に成功した。
驚くのが当然だ。
すると、ヘレスの放った斬撃が狩る者に直撃した。
「トレートルッ!私の復讐に水を差すなッ!邪魔立てするのなら、貴様も殺すぞッ!!」
ヘレスの殺意が狩る者へと向けられる。
僕を殺すのに、執着しているのなら、明らかに水を差す行為だ。
咄嗟に攻撃してもおかしくはない状態だろう。
僕とアルド君が殺された未来では、狩る者が水を差した。
だが、アルド君が死に、僕も瀕死状態、納得のいく結果ではなかったが、ヘレスは仕方なく従ったのだ。
「分かったよ、ヘレス。悪かった。俺は用事が出来たから先に行く。早く片付けるんだよ」
そう言い残して狩る者は、姿を消した。
変わった。
未来が…!
今、未来が変わった瞬間に、喜びたいが、ヘレスを何とかしなければ。
「ヘレス…僕が君を救ってみせる!」