第二章~EPISODE18【誰かに】

武装国家ベスル】の護衛は、帰郷途中、襲撃を受け、交戦状態に陥っていた。

「がはっ!」

護衛の一人が血飛沫と共に、地面に倒れ込む。

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「ほう。精鋭の兵士を、意図も容易く倒すとは驚きだ」

残った護衛が、襲撃者に対して、関心の目を向ける。

「笑わせんなよ!俺にとっちゃあ、ザコだぜぃ?てめぇもあの世に送ってやるぜぃ?」

独特な口調で、護衛に対して剣をチラつかせる。

「ティン、用心なさい。只者ではないようですよ」

国王が告げると、ティンと呼ばれた護衛は、剣をゆっくりと引き抜く。

「陛下、お下がりを。すぐ終わらせます」

「すぐ終わらせるって?てめぇの命がか!?楽しみだぜぃ、臓物をぶちまける様をよぉ」

「おい、雑魚。弱い奴ほど、良く吠えるって自覚あるのか?」

「あ"?俺は雑魚って名前じゃねぇ。プルルスっつー名前があんだよ!」

「変な名前だな」

「んだとぉぉッ!俺らの仲間に大敗した、くそ雑魚集団がいきがってんじゃねぇよッ!」

ティンは、プルルスの言葉に反応し、剣に手を掛ける。

「俺は、【|黒不死鳥《ハルファス》】幹部なんだぜぇ?まぁ、殺される事を光栄に思うんだなぁ!」

「【|黒不死鳥《ハルファス》】?知らんが…良いだろう。俺達の国を襲った仲間に変わりはない。少し、本気で相手してやるよ」

ティンの全身に魔力が駆け巡る。

発せられた魔力に、思わずプルルスが身震いした。

膨大な魔力は、空気を振動させ、対峙する者に威圧感を与える程だ。

「震えてるぜ?」

「このクソ雑魚ガァッ!!!」

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「あり…えねぇ…俺が手も足も出ねぇ…なんて…」

プルルスは、体に無数の傷を負い、今にも息絶えそうだった。

「その程度か?」

傷一つ負わず、プルルスを見下ろしていた。

ティンが見せた魔力の片鱗に対し、体をわなわなと震わせる。

プルルスは、最初から全力でティンを殺す気だった。

しかし、彼が思い描いた結末にはならず、敗北の一歩手前だ。

地べたを這いずり回るような思いをして。

プライドと尊厳を踏み躙られ。

幹部へとなるために、ありとあらゆるものを踏み台に犠牲にして来た。

その結果が、これだ。

彼は、怒りのあまり、体を震わせてしまう。

「こんな事…あってたまるかぁぁぁぁぁッ!」

プルルスは力を振り絞り、剣を振り回す。

怒りに任せた剣など、目を瞑っても当たりはしない。

「くそ…俺だって…俺だって…!」

プルルスの脳裏には、走馬灯のように、今までの出来事が流れる。

彼は幼き頃、両親の顔を知らず、貧民街で泥を啜って生きてきた。

しかし、親切心だけは失ってはならないと、それを誇りに生きて来たのだ。

道端にゴールドが入った袋を拾った時、ネコババする事はなく、詰所へと届けた。

だが、盗人と決め付けられ、激しい暴行を加えられた。

自分が貧乏だから、こうなっても仕方がないと思っていた。

途方に暮れている中、同じ境遇の少年と出会い、やがては親友と呼べるようになった。

しかし、その少年は王族の出身だからと、連れて行かれ、一人取り残されてしまう。

プルルスの心に、ある疑念が芽生える。

【何故、自分だけが、こんな目に遭うのか】

と。

世の中、どれだけ人に尽くしても、善良に生きたとしても、全てが不幸として返って来る。

【|黒不死鳥《ハルファス》】の一員となり、自身の力を誇示できた時は、最高だった。

今まで生きて来た自分の過去が嘘みたいに。

納得の行かない事が一つだけあった。

どれだけ地位が上がろうとも、いつまでも格下扱いだったのだ。

それに加え、ようやく手にした幹部という地位。

しかし、プルルスの後から入って来た実力者達は、あっさりと幹部へ昇格した。

納得の出来るものではなかった。

だからこそ、彼は地位を存在意義とした。

「ここで…くたばってたまるか…!」

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プルルスの仮面が割れ、顔が明らかになる。

ティンは、少し言葉を失ったようだが、瞳からは決して負けないという覚悟のある目を感じる。

「お前を殺して…俺はぁぁぁぁッ!!!」

彼は最後の力を振り絞り、剣を振り上げた。

【認められたい】

と。

「そうか…」

ティンの剣は、プルルスの首元へ振り抜かれた。

(アウルム…)

彼は、コンビだったアウルムを何故か想った。

プルルスの落とされた首は、地面に転がり、辺りは静まり返る。

「安らかに眠れ」

ティンが剣を鞘に納めようとすると、突如として聞こえた声に振り向く。

「【大陸最強】のホープをも凌ぐ実力者と言われているだけの事はありますね」

そこに立っていたのは、少女だった。

「流石は、【武装国家ベスル】の若き国王とでも言いましょうか?」

「!?」

ティンが身構える。

「何故、その事を知っている…」

「知っていますとも。あの戦いで、軍が壊滅。貴方がいたら、結果は変わったでしょうに」

「ティン様!自分を盾にっ!」

国王に扮していた影武者は、剣を引き抜く。

ティンは、【武装国家ベスル】の若き国王である。

その実力は、他国にも知れ渡った。

武装国家ベスルが誇る騎士として。

若き国王であるというのは、国民にも伏せている。

武装国家ベスルの歴史において、若くして王になる事はない。

身分を伏せ、一人の騎士として、国を護って来た。

しかし、ティンが遠征のため、国を離れ、戻って来た時には、無数の屍が転がり、鎌を携える少女のみが、立っていた。

忘れもしない。

自分が招いた不甲斐なさ、消したい過去である。

王である事を、知る者は極わずか。

にも関わらず、この少女は知っている。

何者かは知らないが、倒すべき敵だと判断する。

「こいつらの仲間なら、容赦はしない…!」

「あまり…、手を患わせないで下さいね」

少女は静かに、右手に魔力を集中させた。

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