第二章〜EPISODE11【研究】
【未来へ繋ぐ者達《テスタメント》】研究室。
エイブルは、会議室から誰も居なくなったのを確認し、本棚を操作すると、隠し扉が開く。
ホープでさえ、知らない隠し部屋である。
「テューリ。居るかい?」
沈黙の後、エイブルは山積みになった本の山を見つめる。
そこには、金髪の頭がちょこんと浮き出ていた。
「テューリ!」
少し、声を張り上げると、本の山から、金髪のドワーフが顔を覗かせる。
「また、居眠りかい?」
「これはこれは、エイブル様。いやぁ、お見苦しいところを見せましたな」
【未来へ繋ぐ者達《テスタメント》】筆頭研究員、テューリ。
エイブルが信頼している人物の一人であり、かつて、フィンツのライバルでもあった。
「解析は順調かい?」
「いやぁ、解析は一向に進んでませんよ。何のために作られたものかさえ、書物を漁っても発見出来ませんでしたからな」
2人が目を向けると、収納カプセルに輝きを放つクリスタルがあった。
このクリスタルは、【災厄の子】が誕生したと言われる大陸で発見したものだ。
放たれる魔力は、強力なもので、直に障ると、意識が消し飛ぶ程の代物である。
解析機器を用意するのに、数年の時間を要した程だ。
【災厄の子】。
遥か昔、人々は、とある存在に脅かされていました。
人間でも魔物でもない存在に。
突如として大陸に現れた、年端もいかぬ少年少女達。
彼等は、生まれながらにして、膨大な魔力を秘めていましたが、知性は乏しく、暴虐の限りを尽くし、世界を蹂躙しました。
草木は枯れ果て、屍が地面に転がり、この世の地獄ともいえる惨状。
人々は、彼等を恐れました。
【災厄の子】。
と。
それを、【影の英雄】と呼ばれた者達が命を賭して打ち倒した。
という逸話が残されている程だ。
エイブル達は、【消失事件】は、人為的に引き起こされてるとして調査している。
【災厄の子】は、人為的に生み出された存在である可能性があるとして、長年調査して来た。
【災厄の子】に秘められた魔力は計り知れない。
それも世界を脅かす程の代物。
国一つを消すだけの存在があるとしたら、可能性は捨てきれない。
「しかし、【災厄の子】なんて居たんですかね?にわかに、信じ難い」
「可能性があるというだけだからね。それにこの魔力が解明されれば、生活水準は飛躍的に上がるだろうし」
可能性がなかったとしても、このクリスタルを解明すれば、間違いなく、生活水準を向上させるものになる。
エイブルは、思い詰めたような、表情を浮かべ、ボソッと口にする。
「あんなもの…存在しない方がいい」
「何か言いました?」
「何も言ってないよ。これからも頼むよ」
「わっかりました!」
テューリは、エイブルに正対して、敬礼する。