第二章~EPISODE30【騎士として】

剣と剣の激しいぶつかり合い。

激戦が繰り広げられていた。

アルバ王国騎士団、カラ。

そして、【|黒不死鳥《ハルファス》】幹部、プティーである。

互いに様子を探りながら、剣を交えているが、油断は出来ない。

「ただの襲撃者ではないようだな」

「わたしもびっくりさ〜。アルバ王国騎士団にも、実力者がいるなんて思わなかったから」

「随分と嘗めた襲撃者だな」

「事実さー。【不死鳥】とかナルゼだったら、まぁ相手になるかもだけど…」

互いに距離を取り、構え直す。

カラは、右手の剣をプティー首に重ねて見せた。

アルバ王国の戦力は、その2人だけではないと知れ」

アルバ王国騎士団の戦力は、その2人だけではない。

そう思っているからこそ、プティーの発言に腹を立てていた。

「そう怒んないでよ。君の二つ名に失礼かと思ってさ~。気を遣ってあげたんだよ?」

「なに?」

カラは剣を下ろす。

自身の二つ名を知っている者が、ナルゼ以外に存在するとは思いもしなかった。

つまりは、カラの過去を知る人物でもあるという事だ。

「【国王殺し】のカラって、貴女の事でしょ?」

「貴様、それをどこで…」

有り得ない。

カラの二つ名を知る者は、ナルゼ以外に存在しない。

するはずがないのだ。

アルバ王国騎士団結成よりも前、ナルゼにしか話した事がない。

ナルゼが誰かに話すような事はしないはずだ。

「そんなの、見れば分かるよ。緩やかな立ち回りに流れるような剣さばき。そんな剣術、君しかいないからね」

ティーは、カラの戦い方を見て、今は失われた剣術だと感じ取っていた。

誰かに認識される。

それは誇らしい事ではあるが、カラにとっては触れられたくない過去であった。

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ナルゼと出会う前、カラはアルバ王国と敵対していた国、ホルゲン国に仕えていた。

ホルゲン国は、裕福な国で、何不自由なく、過ごせる国だった。

恵まれた環境であったと言える。

しかし、民の平和は、全て裏で暗躍する者達によって保たれていた。

略奪に暗殺。

それによって、もたらされた平和だった。

カラはそれを知るまでに時間は掛からなかった。

「利益の為に、罪なき人を手に掛けろ…と?」

「聞こえなかったのか?カラよ。近くの農村を襲い、殺せと言っている。筋書きは、こうだ」

ホルゲン国王は、聞きたくもない筋書きを語り始める。

「我らが愛する民達は、アルバ王国の宣戦布告とも取れる侵略行為によって虐殺。そうすれば、大国ゼバンも喜んで我らに味方するであろう。明日を生きるのであれば、それが最善の策だろう」

「王よ、お考え直しを。貴方はそのような考えをする人ではないはず…」

「余の命令を拒むか?」

「くっ…」

カラは、騎士団長として、王のため、民のために身を粉に尽くして来た。

その信頼していた王に、裏切りとも言える言葉を聞き入れる事は出来なかった。

ましてや、守るべき民を手に掛ける事を容認出来るはずもない。

「貴様も余に尽くす者であれば、理解出来る事だと思ったのだがな」

国王は、片手を挙げると、影からホルゲン国の闇とも言える暗殺者や騎士達が姿を現し、カラに刃を向けた。

その中には、カラの部下達もいた。

王がこのような命令に躊躇いもないのは、今までそうやって都合の悪い存在を消していたからだろう。

「我が王よ。最後に1つだけお聞かせ願いたい。民は貴方の何なのですか?」

「言うまでもあるまい。この国が繁栄するためだけの家畜であろう」

カラは、思い返す。

倒して来た敵達の言葉を。

「悪魔に魂を売り渡した…愚か者共め…」

戯言だ。

カラは気にも留めていなかったが、今ならその意味がよく理解できる。

悪魔に魂を売り渡したと揶揄される理由も。

「私は…ホルゲン国の騎士としてではなく、己の意思で貴様らを殺す…ッ!!」

剣を抜くと同時に、王の首を撥ね、ただ感情のままに剣を振るい、全てが終わる頃には、血で染まっていた。

ホルゲン国は、崩壊し、闇を知らぬ民達は、困惑し、滅びの道を歩んだ。

そして、カラはホルゲン国の騎士という肩書きを捨て、兵を募っていたアルバ王国騎士団へ士官した。

「私は、【王殺し】…。だが、今はアルバ王国騎士団の騎士だ。襲撃者よ、貴様の剣に敬意を評し、この剣を持って相手する」

カラは剣を下ろしたまま、プティーへゆっくりと歩き始めた。

罠。

ティーは、そう確信していた。

構えを解きながら、向かって来るという事は、カウンター攻撃しかない。

であれば、反撃の隙さえ与えず、仕留めれば済むだけの話だ。

ティーは、カラが間合いに入るまで、その時を待つ。

一歩、二歩。

間合いが詰まり、その時が来る。

ティーが踏み込んだ。

狙うは、首。

避けたとしても、対処は出来る。

カラは未だに動かない。

歩き続けているだけだ。

ティーは、振り抜いた刀を手放し、地面に伏せた。

右肩へ斬撃を浴びていた。

「かわすか…」

ティーは、直感でカラの攻撃を察知していた。

カラは、間合いに入った時点で、プティーよりも先に攻撃を仕掛けていたのだ。

歩き続けていたのは、作り出していた幻影。

本物は、別角度から攻撃を繰り出していた。

ティーは、逃れるために足払いをするが、手応えはなく、カラは煙のように姿が歪んだだけだった。

視覚で捉えることが出来ない、カラの攻撃は、プティーの身体を掠めていく。

実体が無ければ、反撃すら与える事は不可能に近いだろう。

だが、プティーは目を閉じ、空気の流れから、カラの斬撃を右腕に纏わせた魔力で弾く。

距離を取ったプティーは、自ら放り投げた刀に目を向ける。

「前言撤回するよ。貴女も強い」

素直な気持ちだ。

嘗めていなかった。

と言えば、嘘になる。

その場に存在しているはずが、存在していないとう矛盾。

作り出された幻影とはいえ、ここまで厄介な相手だと思ってもみなかった。

「魔力防御で防いだのは、褒めてやる。だが、武器を失った貴様に反撃する手立ては残っていまい…。次で最後だ」

「反撃…ね。それはどうかな」

ティーは、拳を握り構える。

カラの幻影は、プティーへと再び、歩き始めた。

固有スキル【幻影者】。

幻影を残し、自らの実体を消失させる事が出来る。

カラの幻影が再び、プティーの間合いに入った。

ティーは、回し蹴りや連撃を繰り出すが、カラの作り出した幻影には効果がない。

すると、稲妻が迸る。

だが、カラの幻影はピクリとも動かない。

「これで、終わりだ」

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電撃を纏った斬撃が繰り出されようとしていた。

「それを待ってたよ」

「何!?」

ティーは、抜刀の体勢。

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しかし、刀はないが、黒き輝きがプティーの手元に収束して行く。

空間が歪む程に。

「くっ…ギガスラッシュッ!!」

カラは、ギガスラッシュを放つ。

「暗黒連撃」

抜刀と共に、黒き輝きは刃を形成し、鞭のようにしなる。

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繰り出される連撃に、カラの放ったギガスラッシュは打ち消され、実体を消失させたはずの体へと触れた。

禍々しく輝いた黒き刃は、カラの作り出した幻影をも払い、肉体を切り裂いていく。

肉を抉り取り、鮮血が地面にこびり付いた。

カラは、体を震わせながら、立ち上がろうとした。

だが、黒き刃で受けダメージは深く、致命傷である。

本来であれば、痛みに耐えきれず、絶叫し、そのまま死に至るだろう。

それでも抗うのは、カラの意地だ。

「【幻影者】を破る…とは…がはっ」

今まで、破られたことの無い、【幻影者】。

悟る。

破られた時点で、勝敗は決していたと。

「暗殺なら、その能力は強いかもね」

ティーは、気付いていた。

防御した時、カラの一撃に触れた。

つまり、実体は消失していないと確信した。

でなければ、攻撃はすり抜ける。

すり抜けないということは、攻撃の瞬間だけ実体が存在するという事だ。

もし、これが正面からの戦いではなく、暗殺であれば負けていたのは、プティーの方かも知れない。

「…って、もう聞こえてないか」

ティーは刀を鞘に納め、その場を後にした。

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カラは遠のく意識の中で、ナルゼを思い浮かべた後、静かに目を閉じたのだった。