EPISODE5、【生き残るために】

魔物の軍勢が進行を続ける中、【遠征騎士】副団長である屈強なオーガがフィルゼン達のいる国へ訪れていた。

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彼の名は、サイシン。

ナルゼの戦友であり、勇猛果敢に攻め、道を切り開く。

団員達からの信頼も厚い。

「サイシン副団長。お待ちしておりました」

「うむ。候補生達は?」

「既に整列しております」

サイシンが訓練場へ訪れると、候補生達は整然と整列していた。

一人一人の顔を確かめながら、声を張り上げる。

「候補生諸君ッ!今日より、候補生ではなく、一人の騎士として戦場に出てもらうッ!戦いは熾烈を極めるッ。この中で命を落とす者もいるだろう…」

候補生達が固唾を呑み込む。

「だが…、我らの後ろには大勢の命がある。護り抜いてこその騎士だッ!心して掛かれッ!!」

「「はっ!!」」

候補生達は、防衛戦を築き、魔物の軍勢を迎え撃つ準備に取り掛かっていた。

「俺…死ぬのかな…」

「そんな弱気になるなよ…」

「お前だって…手が震えてるぞ…」

候補生達の中には、悲観的に絶望している者達が何人か出ていた。

誰だって死ぬのは怖い。

実戦経験がある者なら多少なりとも、覚悟を決める事が出来るだろう。

しかし、そうでない者だっている。

「じゃあ、逃げればいい」

フィルゼンが黙々と準備している中、候補生達が顔を背ける。

「逃げても私達が負ければ、魔物達に蹂躙される。それが先になるか後になるかってだけ」

「怖くないのかよ…お前」

「生きるためなら何でもするだけだよ」

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「しかし、今回の候補生達は中々の粒揃いか…、惜しいな」

サイシンは、候補生達の履歴書を眺めながら肩を落とす。

未来ある若者達を早々に戦場に送り出す事に胸を痛めていた。

「おっ。ひょっとしたら、戦場で生き残るかもな。こいつらなら」

「いえ。まだまだヒヨっ子ですよ」

教官の一人がそう話すと、サイシンが笑い飛ばした。

「こいつらの実力を確かめたのか?」

「訓練過程を早めたので、何とも…」

「なら、こいつらは前線で起用しろ」

サイシンが起用する人物の履歴書を教官へ手渡す。

「確かに…他の候補生達よりは、群を抜いていますが…」

「戦場では、実戦経験が役立つ。期待してもいいぞ?」

名前が上がったのは、

フィルゼン、アルド、テティの3人だった。

テティについては、サイシンが知っていた。

【テティ】。

各国の要人が利用する【傭兵団】唯一の生き残りで、団長の一人娘。

実力に関しては、サイシンが認めている。

【アルド】。

幼少の頃から、兵士になるための過酷な訓練を受けており、魔物の戦闘においても知識が豊富。

【フィルゼン】。

性格に難はあるが、生き残るための本能が人より秀でており、実力が伴っている。

「何が何でも、ここは失っちゃいけねぇからな」

「え!?私らが前線へ!?」

サイシン直々の指名に、テティ、フィルゼン、アルドの3人は少し驚いていた。

「そうだ。遠征騎士と行動を共にして、魔物の戦力を少しでも削げ」

「俺とテティなら、ともかく。このガキは足でまといになります。後方が良いかと」

フィルゼンがアルドの発言に対して、睨み付ける。

「アルド、これは命令だ。分かるな?」

「……了解しました」

「テティ、アルド。お前らは先に行け」

テティとアルドは、顔を見合わせた後、馬を準備している遠征騎士の元へと向かった。

「フィルゼンだったな。お前の実力は、評価に値する。だが、これからは仲間と共に戦うということを忘れるな」

「要するに生き残れば良いんでしょ」

フィルゼンは、耳にタコが出来るくらい聞いた話で、うんざりした表情でテティ達の後を追った。

(仲間と戦うって事は、自分だけの命じゃねえってのに…)

サイシンは、深い溜め息を零した。