EPISODE4、第一章~【不死鳥】~

私はずっと、貧民街を彷徨い続けるただの子供に過ぎなかった。

路上で人が餓死するなんて当たり前。

国に、人々に。

私達は見捨てられた。

【見捨てられた街】なんて言われても仕方のない事だった。

魔物が出現した時だってそうだった。

貧民街には救いの手を差し伸べられず、魔物の餌食となった。

助けを請おうとも、避難さえさせてもらえなかった。

囮として、ただ命を失った。

同じ人間で、こうも扱いが違う。

私だって…生きているのに。

ナルゼは世界を変えたいと思っているとしても、私はそうは思わない。

何をやったって、どうせ無駄なんだから。

f:id:F-Zen:20210618011833j:plain

目を覚ますと、そこは医務室のベッドの上であり、フィルゼンは目を擦り、辺りを見渡すと誰も居ないため静かだった。

怪我は呪文である【ベホイム】によって完治していた。

体を起こすと、気だるさが残る。

扉の奥で話し声が聞こえた。

「あんた…文句があるなら、来なきゃいいのに」

「うるせぇ女だな」

扉を開けて入って来たのは、テティとアルドだぅた。

「フィルゼン!目を覚ましたのね!?」

テティは大喜びしていると、フィルゼンが鬱陶しそうに顔を顰める。

「テティ。私、何日眠ってたの?」

「一週間だよ」

テティの話で、事の顛末を知る。

あの後、候補生達は無事に残留し、訓練に明け暮れているとの事だった。

だが、情勢が変わったらしい。

魔物の侵攻が予想以上に激しさを増し、候補生達全員、戦場へと出立しなければならなくなったそうだ。

「黙って寝てりゃ良かったのによ。お前みたいなガキは足でまといだからな」

アルドがそう言い放つと、すかさずテティが割って入る。

「気にしなくて良いのよ〜、フィルゼン。ほら!早く教官に報告行くよ!!」

「おいテティ…俺の話はまだ終わって…」

「いいからッ!!またね、フィルゼン」

f:id:F-Zen:20210618012216j:plain

喧嘩を思わず止めたテティは、アルドと共に医務室から出て行った。

「どういう関係?」

フィルゼンは、小首を傾げるのだった。

陽は落ち始め、すっかり夕方だ。

体調報告を済ませたフィルゼンは、食堂へと向かうと、他の候補生達から賞賛を浴びる。

「フィルゼン!助かったぜ」

いけ好かない奴だと思ったけど、見直した!」

周りに敵ばかり作るフィルゼンにとって、それは嬉しいものだった。

賞賛の嵐を壊す一言が飛び出すと、候補生達の視線が集まる。

「何が助かっただよ。馬鹿じゃねぇの?」

アルドだった。

「考えてもみろよ。こいつのワガママのせいで、危うく候補生から外れるところだったんだぜ?」

何かと目の敵にしているとはいえ今回は、やけに突っかかってくる。

「ただでさえ、足でまといになるのは目に見えてるのに、ガキが出しゃばってんじゃねぇよ。とっと田舎に帰れってんだ。ハッハッハ」

f:id:F-Zen:20210618012323j:plain

アルドは、フィルゼンの頭に水をぶっ掛けると、黙っていたフィルゼンであったが、無意識のうちに拳を繰り出していた。

「このクソ野郎ッ!」

フィルゼンが殴り飛ばすと、アルドもやり返して来る。

「上等だッ!」

食堂で乱闘が勃発した。

「いつもいつも!」

嫌がらせをしていたのは、どうせこいつだろうとずっと思っていたため、怒りがいつも以上に爆発してしまう。

フィルゼンがアルドの顔面に蹴りを入れると鮮やかに決まる。

「このクソガキがッ!」

アルドは体を仰け反らせながらも、蹴り返していた。

テーブルはひっくり返り、互いに血を流しながらの殴り合いとなっていた。

「お、おい…誰か止めろよ」

「ならお前行けよ…」

固唾を飲み込み、渋々、候補生の一人が仲裁に入る。

「喧嘩…」

言葉を言い切らせず、フィルゼンの拳が顔面に決まる。

「邪魔ッ!」

候補生は鼻血を噴き出して、のされてしまった。

他の候補生達も仲裁に入ろうとするが、フィルゼンとアルドの喧嘩の雰囲気に呑み込まれてしまう。

フィルゼンは馬乗りになり、アルドの顔面を殴打すると、無理矢理体を起こしたアルドに頭突きで反撃を受ける。

どちらかが倒れるまで、収拾がつかない状態だった。

「最初から気に食わなかったんだ!」

「奇遇だな!」

互いの拳が顔面に決まる。

f:id:F-Zen:20210618012406j:plain

よろけながらも、再び拳を固めて殴り掛かろうとすると、

「いい加減に…しなさいッ!!」

怒声とともに2人の頭に鉄拳が炸裂する。

「…全く」

f:id:F-Zen:20210618012425j:plain

トイレに行っていたテティが戻って来て、無理矢理、喧嘩を終わらせる。

唐突な一撃に2人は頭を抑えて悶絶していた。

喧嘩騒ぎは、教官の耳にも入り、3人は説教を受ける事となった。

そして、フィルゼン達がいる国にも魔物の軍勢が差し迫っていた。