EPISODE4、第一章~【不死鳥】~
私はずっと、貧民街を彷徨い続けるただの子供に過ぎなかった。
路上で人が餓死するなんて当たり前。
国に、人々に。
私達は見捨てられた。
【見捨てられた街】なんて言われても仕方のない事だった。
魔物が出現した時だってそうだった。
貧民街には救いの手を差し伸べられず、魔物の餌食となった。
助けを請おうとも、避難さえさせてもらえなかった。
囮として、ただ命を失った。
同じ人間で、こうも扱いが違う。
私だって…生きているのに。
ナルゼは世界を変えたいと思っているとしても、私はそうは思わない。
何をやったって、どうせ無駄なんだから。
目を覚ますと、そこは医務室のベッドの上であり、フィルゼンは目を擦り、辺りを見渡すと誰も居ないため静かだった。
怪我は呪文である【ベホイム】によって完治していた。
体を起こすと、気だるさが残る。
扉の奥で話し声が聞こえた。
「あんた…文句があるなら、来なきゃいいのに」
「うるせぇ女だな」
扉を開けて入って来たのは、テティとアルドだぅた。
「フィルゼン!目を覚ましたのね!?」
テティは大喜びしていると、フィルゼンが鬱陶しそうに顔を顰める。
「テティ。私、何日眠ってたの?」
「一週間だよ」
テティの話で、事の顛末を知る。
あの後、候補生達は無事に残留し、訓練に明け暮れているとの事だった。
だが、情勢が変わったらしい。
魔物の侵攻が予想以上に激しさを増し、候補生達全員、戦場へと出立しなければならなくなったそうだ。
「黙って寝てりゃ良かったのによ。お前みたいなガキは足でまといだからな」
アルドがそう言い放つと、すかさずテティが割って入る。
「気にしなくて良いのよ〜、フィルゼン。ほら!早く教官に報告行くよ!!」
「おいテティ…俺の話はまだ終わって…」
「いいからッ!!またね、フィルゼン」
喧嘩を思わず止めたテティは、アルドと共に医務室から出て行った。
「どういう関係?」
フィルゼンは、小首を傾げるのだった。
※
陽は落ち始め、すっかり夕方だ。
体調報告を済ませたフィルゼンは、食堂へと向かうと、他の候補生達から賞賛を浴びる。
「フィルゼン!助かったぜ」
「いけ好かない奴だと思ったけど、見直した!」
周りに敵ばかり作るフィルゼンにとって、それは嬉しいものだった。
賞賛の嵐を壊す一言が飛び出すと、候補生達の視線が集まる。
「何が助かっただよ。馬鹿じゃねぇの?」
アルドだった。
「考えてもみろよ。こいつのワガママのせいで、危うく候補生から外れるところだったんだぜ?」
何かと目の敵にしているとはいえ今回は、やけに突っかかってくる。
「ただでさえ、足でまといになるのは目に見えてるのに、ガキが出しゃばってんじゃねぇよ。とっと田舎に帰れってんだ。ハッハッハ」
アルドは、フィルゼンの頭に水をぶっ掛けると、黙っていたフィルゼンであったが、無意識のうちに拳を繰り出していた。
「このクソ野郎ッ!」
フィルゼンが殴り飛ばすと、アルドもやり返して来る。
「上等だッ!」
食堂で乱闘が勃発した。
「いつもいつも!」
嫌がらせをしていたのは、どうせこいつだろうとずっと思っていたため、怒りがいつも以上に爆発してしまう。
フィルゼンがアルドの顔面に蹴りを入れると鮮やかに決まる。
「このクソガキがッ!」
アルドは体を仰け反らせながらも、蹴り返していた。
テーブルはひっくり返り、互いに血を流しながらの殴り合いとなっていた。
「お、おい…誰か止めろよ」
「ならお前行けよ…」
固唾を飲み込み、渋々、候補生の一人が仲裁に入る。
「喧嘩…」
言葉を言い切らせず、フィルゼンの拳が顔面に決まる。
「邪魔ッ!」
候補生は鼻血を噴き出して、のされてしまった。
他の候補生達も仲裁に入ろうとするが、フィルゼンとアルドの喧嘩の雰囲気に呑み込まれてしまう。
フィルゼンは馬乗りになり、アルドの顔面を殴打すると、無理矢理体を起こしたアルドに頭突きで反撃を受ける。
どちらかが倒れるまで、収拾がつかない状態だった。
「最初から気に食わなかったんだ!」
「奇遇だな!」
互いの拳が顔面に決まる。
よろけながらも、再び拳を固めて殴り掛かろうとすると、
「いい加減に…しなさいッ!!」
怒声とともに2人の頭に鉄拳が炸裂する。
「…全く」
トイレに行っていたテティが戻って来て、無理矢理、喧嘩を終わらせる。
唐突な一撃に2人は頭を抑えて悶絶していた。
喧嘩騒ぎは、教官の耳にも入り、3人は説教を受ける事となった。
そして、フィルゼン達がいる国にも魔物の軍勢が差し迫っていた。