EPISODE10、【なぜ?】
「ハァッ!」
フィルゼンが剣で斬り付けると、騎士は受け流して、テティの繰り出していた槍を紙一重でかわしてみせた。
互いに距離を取る。
「3人の中で1番腕が立つようだね」
フィルゼンは、剣を握り直すと、騎士は腹を立てながら剣を振りかざす。
「貴様らガキどもに嘗められてたまるか!」
2人の騎士が敗北した事で、この騎士は死ぬ気でフィルゼン達を仕留めようとしている。
現に、候補生の中でも実力者である2人を相手にして互角だ。
しかし、2対1。
分が悪いのは、騎士の方だ。
「テティ。早く片付けて、合流しよう」
「おっけー…」
「ガキどもがっ!」
騎士が立ち向かうと、フィルゼンが懐に入り込み、直ぐに騎士の前から消える。
「さみだれ突きッ!」
フィルゼンに気を取られていた騎士は、テティの【さみだれ突き】をまともに浴びる。
そこへ追い討ちで、フィルゼンが【はやぶさ斬り】で仕留めた。
「よし」
「今、馬を呼ぶから…あれ、アルドじゃない?」
遠目から、アルドが走っているのを確認すると、手を振る。
「ちっ」
フィルゼンが露骨に嫌そうな態度を取る。
テティは、指笛で呼び付けた馬に飛び乗り、フィルゼンも飛び乗ろうとした時だった。
「せめて…一人だけでも!」
虫の息だった騎士が油断していた、フィルゼンに剣を突き出していた。
咄嗟の攻撃に反応出来るわけもない。
「フィルゼン!!!」
※
「…え?」
フィルゼンは、押し飛ばされ、騎士の攻撃は当たらなかった。
視線を移すとアルドが腹を貫かれていた。
「うぉぉぉぉぉぉぉッ!!」
短剣でめいいっぱい、騎士の首元を突き刺すと、騎士は力無く、その場に倒れた。
「はぁ…っ…はぁ…っ…くそっ!」
アルドは血を吐き出し、横たわる。
「アルドッ!しっかりしてっ!」
テティは、傷口に布を当て、止血を試みる。
「どうして…?」
フィルゼンは、突然の出来事に思考が止まりかけていた。
理解出来なかったのだ。
「やっぱり…ガキだぜ…お前は」
「ど…どうして私を庇った!?嫌いなんだろ…?私が…」
「ははっ…。そう思われんのも当然だよな。俺は…お前に死んで欲しく…なかった 」
「なっ…」
言葉を詰まらせる。
「たかが…金なんかのために…捨てて良い命じゃねぇ…だろうが」
ドクンッ。
フィルゼンは鼓動が高鳴ったを感じた。
そう。フィルゼンは、生きるためのお金を稼ぐために命を賭して戦っていた。
アルドは、そんなフィルゼンを見て、いてもたってもいられなかった。
そんな形で命を捨てて欲しくなかったのだ。
「俺は…憎まれて当然だ…だが…約束しろ!必ず生き…ろ」
ゆっくりと目を閉じる。
(ははっ。力が入らねぇや…。ルイス…ごめんな…クソッタレな兄ちゃんでよ…)
※
時は、フィルゼンが意識不明のまま、ベッドに横たわっていた頃まで遡る。
フィルゼンに掛けられていた毛布がはだけており、それを見たアルドは、毛布を掛け直すと、ホッとしたような表情を浮かべた。
「へぇ。案外、優しいとこあるじゃん?」
テティの声にハッとした様子で、アルドは何も言わずにその場を立ち去ろうとすると、それをテティが足で入口を塞ぐ。
「なんだよ…」
「ちょっといい?あんたフィルゼンの事が好きなの?」
「はぁッ!?」
アルドは唐突な発言に驚きの声を上げる。
「あれでしょ好きな子な程、嫌がらせしちゃうってやつ?」
「違ぇよ。そんなんじゃ…」
「隠さなくてもいいのよ〜」
テティがおちょくると、アルドは面倒だと感じる。
「妹と重ねちまってな…」
アルドは、過去を語る。