EPISODE9、【蠢く影】

「フィルゼン気を付けて!だだのギガンテスじゃない!」

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テティは対峙すると、禍々しいオーラを放つギガンテスに体を震わせる。

武者震いか恐れか。

「テティ。足引っ張らないでね」

フィルゼンは剣を握り締め構える。

「言ってくれるじゃん!」

ギガンテスは、棍棒を叩き付け、咆哮を上げる。

動きを見る限りでは、俊敏ではない。

ただ、攻撃が当たれば、ただでは済まないだろう。

フィルゼンはギガンテスの大振りをかわしながら、行動力を奪うために足を斬り付ける。

すると、ギガンテスは何事もなかったかのように平然と立っていた。

フィルゼンが再び攻撃を仕掛けようとすると、剣に亀裂が入り、砕け散ってしまう。

「これならッ!」

テティは、大きく息を吸い込み、魔力を槍へと集中させ、一気に放出させる。

「一閃突きッ!!!」

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とくぎ、【一閃突き】でギガンテスの胴体を穿つ。

しかし、ギガンテスの筋力によって押し飛ばされてしまった。

予想以上に厚い筋肉は、鋼鉄の防御さえも上回る。

防御が薄いところを探すと、やはり、大きな目玉だろう。

フィルゼンがテティに目配せすると、テティは槍を斜めに構える。

そこへフィルゼンが駆け出し、テティの槍に足を掛けた。

「せいっ!」

上空へとフィルゼンを打ち上げ、フィルゼンはくるりと回転しながらギガンテスの目玉を蹴り上げた。

ギガンテスは視界を奪われ、地面でのたうち回る。

「フィルゼン!今のうちに撤退しよう」

フィルゼンが頷き、撤退しようとしたが、退路を何者かに塞がれる。

「増援!?」

「違う…」

フィルゼンは、地面に転がっていた剣を拾い上げて身構える。

カラの命を狙った者と同様の鎧を身に付けた騎士が3人。

用紙を広げて、フィルゼンとテティの顔を確認しているようだった。

「【遠征騎士】ではないようだが…どうする?」

「…となると。噂で聞いた、候補生じゃないか?」

「なら、早めに潰すに越したことはないな」

3人は、フィルゼンとテティを見て鼻で笑ってしまう。

実力者揃いの【遠征騎士】なら、いざ知らず。

簡単に排除出来ると感じたのだ。

「安い仕事だな」

騎士の一人が剣に手を掛けると、2人の騎士は飛び退いて距離を取っていた。

「おい、どうしたんだよ…ん?」

舐めきった口調の騎士が視線を落とす。

フィルゼンが懐に飛び込んでいた。

ポタポタと血が流れ落ち、自分が何をされたか理解しようとしたが理解は出来なかった。

なぜなら、

「あれ…何で俺…血が…」

フィルゼンの剣が首元を突き刺していたからだった。

死んだ事にさえ、気付くのが遅れた。

余程、フィルゼン達を嘗めきっていたのだろう。

会話中に攻撃する訳がない。

しかし、フィルゼンはそういう事を平気でやってのける。

戦場での油断は命取りだと、思い知らせたのだ。

剣を振りながら、血を払い、騎士2人へと向ける。

「このガキがっ!」

剣を翻し、フィルゼンを仕留めようと急接近。フィルゼンは避けようともしない。

それを騎士は、

(所詮はガキ…。俺の動きに付いては来れまい!)

と判断していた。

フィルゼンは首を横に軽く傾ける。

騎士は剣を振り上げると、胸に激痛が走った。

「な、なに!?」

フィルゼンの頭の横を槍が通り抜けていたのだ。

テティが【一閃突き】を繰り出していた。

騎士は胸を抑えながらよろめくと、フィルゼンが蹴り飛ばすと地面に沈む。

「く、くそ」

残った騎士が後ずさる。

大国ゼバンにおいて、防衛戦に関しての会議が開かれていた。

「各軍は、疲弊しております。大国のお力添えをどうか…」

各国の国王は、軍の現状を大国ゼバン国王、レストへと報告する。

圧倒的軍事力を誇る、ゼバンの戦力があれば、魔物の軍勢を破ることは可能だろう。

しかし、大国ゼバンは戦線に参加をしていない。

「今、我々の方でも魔物の軍勢を差し向けている人物を調査している。根源を叩くまで、貴方方の力が必要だ」

すると、兵士の一人がレストへ耳打ちをすると、その場を退出する。

大国ゼバンの使われていない倉庫へと足を運ぶとレストは怒鳴りつけた。

「一体、何をやっているんだお前は!?」

怒鳴りつけた相手は、白き鎧を身にまとい、背中に大きな鎌を背負った騎士だった。

「陛下の望んだ事ではありませんか?」

「確かに…例の組織を調査しろとは言ったが、世界を巻き込めとは言っていないだろう!?」

「力量を測るならば、戦争状態が一番よろしいかと。戦闘能力を見極めれますからね。それに、既に戦力は削ぎましたし」

「何のために軍団長の座を与えたと思っている…」

レストが睨み付けると騎士は肩を竦める。

「元々、力の弱かった国を立て直したのは、誰のお陰です?この事が公になれば、貴方もこの国も地に堕ちる。計画は既に始まっているのですよ」

大国ゼバンは、あらゆる手。

汚い手を使い、大国まで成り上がった。

その一躍を担ったのが、この騎士である。

騎士が言うように、各国に知れ渡れば、築き上げて来た信頼なぞ、容易く地に堕ちる。

「分かった。貴様に任せる…」

「寛大なお心に感謝します、陛下」

騎士はそう言って姿を消した。

「このままでは…国が…何とかしなければ…」

レストは、騎士の行いに対して頭を悩ませるのだった。