第4話Re:make・EPISODEフィルゼン
「あの子、ただの従者じゃないですね?」
ナルゼがお茶を啜るホープに対して問い掛ける。
一目見て、従者の本質を見抜いていた。
「どうしてそう思う?」
「ははっ、肌で感じました。滲み出る魔力までは隠せませんよ。それに、あの鎧は魔力コントロールするための枷ですよね?」
一瞬、間を置いたという事は、ナルゼが言った事があながち間違ってはいない。
「はっはっは。相変わらずの観察眼だな」
「観光に来たのは、何か理由がおありで?」
「ナルゼ、お前に用がある」
「私に?」
「お前の意見が聞きたい」
※
「これは…?」
ナルゼは、ホープに手渡された写真を見て、訝しげな表情を浮かべた。
写真に写っているのは、隕石でも落ちたかのようなクレーターの跡だ。
「そこに、国があったって言ったら信じるか?」
「国が…ですか?」
「ああ。一夜にして、国が丸ごと消失した」
「そんな…」
「魔物の仕業とも考えられたが、そんな魔物は聞いた事もない。天災かそれとも人為的か…。お前はどう見る?」
「何とも…。ただ…」
「ただ?」
「過去にもありましたよね、【消失事件】」
すると、ホープは首を傾げる。
「初耳だ。過去にもあったのか?」
「ええ。私の団員の中に生き残りがいます」
「何だと!?なぜ、黙っていた!?」
「いえ。その子の話では、大国ゼバンへ報告したらしいのですが、取り合ってもらえず。地図にもない国だったせいもあり、信じてもらえなかったそうです。私も見た事がなかったため、何とも…」
「人為的だとすれば、戦争になりかねないな」
ホープの元へ、武装した兵士が駆け寄って来る。
伝令兵だった。
「ホープ様、至急お戻りをッ!緊急事態でございます」
「どうした?」
「各地方で魔物の軍勢を確認致しましたッ。過去以上の戦力です」
「ちっ、歯切れの悪い…。ナルゼ、さっきの話は秘密だ。いいな!」
「はっ」
魔物の軍勢が各地方に出現し、大国ゼバンを初めとする連合国軍は、各国の防衛線を展開する事になった。
過去以上の戦力に加え、魔物も強力になっていた。
出現して一週間も経たずに、何ヶ国は魔物の軍勢によって滅ぼされる始末。
当然、【遠征騎士団】にも招集が掛かるのだった。
「ナルゼ、お前がその決断をするという事は、あの者達の未来を絶つという事になる。それでいいのか?」
ウェディの遠征騎士は、団長であるナルゼに今一度問う。
「例え…遠征騎士になれなくとも、生きる術はある…。死んでしまえば、何も成せない。多少手荒い訓練で生き残らなければ…、戦場では生き残れない」
苦渋の決断だ。
今、【遠征騎士団】に求められているのは、即戦力。
実力を見極め、戦場へ送り出さなければならないのだ。
もちろん、ナルゼの本心ではない。
「あ、ナルゼ」
偶然通り掛かったフィルゼンに声を掛けられたナルゼはハッとしたような表情を浮かべる。
「先に行っているぞ」
ウェディの遠征騎士は、そそくさとその場を後にした。
※
「戦場に行くの?」
「まぁ…ね」
「早く私も戦場に行きたいな」
「死ぬのが怖くないのかい?」
「その分、報奨金が出るんでしょ。金さえあれば楽出来るしね」
「フィルゼン…!」
ナルゼは、命を軽く見ているフィルゼンに対しての湧き上がる感情を抑えて、そっと抱き締めた。
「何のつもり?」
「君は…どうしてそこまで…」
金に拘るのか。
そう聞きたいが言い出せない。
この様子だと、フィルゼンから聞きたくもない答えが返って来そうだからだ。
全ては、フィルゼンの育って来た環境にある。
偽りの平和が、フィルゼンのような考えを持つ子供を生み出してしまったのだ。
「行って来る…」
ナルゼは、早く戦いを終わらせなければならいという決意を固めて、遠征騎士団を率いて出立した。