第二章~EPISODE1【平和】
月日は流れ、世界は平和な道を歩む。
そんな中。
「くー…くー…」
土手に寝そべりながら、眠りこける赤髪の女騎士。
何の夢を見ているのかは、女騎士にしか分からないだろうが、もし、魔物が接近して来ても気付かないほど、眠りは深い。
「フィルゼン団長。ここに居ましたか」
「んあ?」
赤髪の少女だったフィルゼンは、背筋を伸ばしながらゆっくりと起き上がる。
「もう、こんな時間か…」
「お戻りを。ナルゼ団長がお呼びですよ」
「はいはい…」
フィルゼン、21歳。
少女だった頃に比べて、見違える程の成長を遂げた。
気性の荒い性格だった彼女も、年数を重ね、穏やかになっていった。
今では、誰かを護るために、命を懸けて戦っている。
そして、フィルゼンは、ある騎士団の団長となった。
それは、16歳になった頃だ。
「では、フィルゼンの【不死鳥】に因んで、【不死鳥の騎士団】をここに結成する」
【不死鳥の騎士団】は、当時最年少だったフィルゼンを初め、多くの若手で構成された。
候補生達からは、満場一致で団長へと推薦されてしまった。
本人としては、全くやる気はなかったのだが。
やるからには、全力で。
※
【遠征騎士団】改め、【アルバ王国聖騎士団】詰所において。
「これで9カ国目…か」
ナルゼは頭を悩ませていると、新兵であるイルが調子良く、積み上げられた書状を読む。
「同盟の申し入れが、こんなにあるなんて嬉しい事じゃないんですか?」
アルバ王国が名を返上されてから、同盟の申し入れが後を絶たない。
国にとっては、支援を受けられるのだから、生活水準は向上するだろう。
しかし、悩ませている理由は他にある。
「この国々は、かつてはアルバ王国の傘下だったが大国ゼバンに敗戦して以降、締結していた条約を一方的に破棄した。なのに、今更…」
アルバ王国は元々、紛争や内乱で纏まりが無かった小国を武力で行使する事なく、対話によって争いを収めてきた。
支援活動も決して手を抜かず、差し伸べられる手は差し伸べて来た。
やがて、アルバ王国を筆頭に小国は次々と同盟を結び、アルバ王国国王の掲げる【平和な世界】を志した。
世界の国々の中心となるはずだった。
その一方で、大国ゼバンは、圧倒的軍事力を以てアルバ王国のように対話ではなく、武力を行使し国を治めてきた。
あらゆる国を侵略、略奪し、領土を拡大していった。
アルバ王国にも、大国ゼバンが侵攻して来てしまった。
国王陛下は、抵抗する事無く、国民の命を保証する代わりに幽閉されてしまい、アルバ王国騎士団は解体。
【遠征騎士団】として、大国ゼバンの戦力として吸収された。
それと同時に傘下だった同盟国は、手の平を返すかのように大国ゼバンへと下り、アルバ王国復興には一切協力しなかった。
そう、大国ゼバンはアルバ王国の功績を乗っ取り、小国を滅ぼした事実を隠蔽。
それに加え、アルバ王国が影で行ったと大国ゼバンが唱えた。
力のある国々は、大国ゼバンを【争いの種を根絶】したとして称えた。
真実は闇へと葬られ、ナルゼ達は従うしかなかった。
この出来事があるため、同盟を結ぶにも、信用性に欠けるのだ。
国王が先立たれ、残されたのは、姫一人。
信用性に欠ける輩を近付けるのは危険だ。
※
「それで、用って何?」
フィルゼンがナルゼの元へと尋ねて来ると、用件を伝える。
「今度、各国の【定例会】がある」
「もしかして、姫様を出席させるの?」
「当然だ。まだ、各国への挨拶も済ませてないからね」
【定例会】。
各国が世界各地の情勢について語り合う場である。
そこで交わされた意見を元に、援助や戦力を増強する。
「フィルゼンは俺と姫様の護衛についてもらう。他にも何人か連れては行くが…」
「流石にそれは不味いと思うけど?」
「それは、大丈夫だ。アルド達に留守は任せる」
「……」
「フィルゼン、君の気持ちも分かるが…」
フィルゼンは、ただ心配なのだ。
留守中に、何かあったらどうしようかと。
「出立は、明日だ。準備しておいてくれ」
「…分かった」
※
「全く…ナルゼの奴…!」
フィルゼンが腹を立てていると、そこへ、カラが声を掛ける。
「どうした、フィルゼン」
「カラさん…聞いて下さいよ!」
フィルゼンは、【定例会】の護衛で、数日間、国を空ける事を説明する。
「ははは。何だ、そんな事か」
「そんな事って…!」
「フィルゼン。確かにお前は、【不死鳥の騎士団】…いや、アルバ王国の顔と言ってもいい。だがな、お前一人で国を護って来た訳じゃないだろ?」
「それは…そうですけど」
「少しは皆を信じてもいいんじゃないか?」