第5話Re:make・EPISODEフィルゼン
東に位置する、ファルド王国防衛線にてーー。
ホープが率いる軍が魔物の軍勢と激戦を繰り広げていた。
(3日に渡る不眠不休…。奴らの攻勢は…揺るがず…か)
ホープは深い溜息を零す。
「ホープ、兵士達が疲弊しきってる。君も休んだ方がいいよ」
傷を負った兵士達の治療を終えた、白のベレー帽を被った水色髪の女軍人が切り詰めているホープへ話し掛ける。
「それを言うならフィンツ。お前は5日も寝てないじゃないか」
「ははは。そんなの、いつもの事さ。寝るのは勿体ないからね」
「こっちの被害は?」
「総勢3万。昨日の戦いで、負傷者が5千人。死者が3千人…。戦況は良くないよ」
ホープが頭を抱える。
兵士達も決して弱くはない。
しかし、出現した魔物が過去以上の強さだ。
こちらの被害は増すばかり。
「ここを突破されれば、ファルド王国は陥落する…。私も前に出るしかないな」
「それは賛同出来ないね。君を失えば、こちら側にとっても大打撃だ」
「あくまで、最悪の場合だ」
「駄目だ。君は少し、自分の立場を考えた方がいい」
「…」
ホープは深い溜息を零す。
「お前こそ、前線に来て良かったのか?」
ホープは、フィンツの身を案じて、後衛を提案したのだが、頑として首を縦には振らなかった。
「人にはそれぞれの役割がある。ボクの役割はこうして前線で負傷者を救護する事さ」
「妹が…」
「フリッシュなら大丈夫さ。ああ見えて、強い子だからね」
身を案じていたのは、唯一の肉親である妹の傍に居させてやるためだった。
フィンツは泣き喚く妹を国に置いて、前線に出て来たのだ。
国を…仲間を…家族を守るために。
「本当、君は仲間思いだね。だから従者君を置いて来たのだろう?」
「あいつが居ても足でまといなだけだ。断じて!心配とかじゃないからな」
「ははは。君らしいよ」
束の間の談笑の最中、兵士の叫び声が響く。
「魔物出現ッ!!!」
「ふぅ。もうちょっと休ませて欲しいものだな」
「同感だね」
「ここを破られれば、国が滅ぶ!心して掛かれッ!!」
ホープが兵士達を鼓舞し、剣を引き抜く。
「総員戦闘態勢ッ!」
ホープが出現した魔物達へ剣を向ける。
兵士達が砲台へと配置に付く。
「ッてェッ!!!」
砲台がけたたましく火を噴く。
砲弾が魔物達に着弾し、数を減らしたものの、進軍を決して止めない。
最早、物量戦だ。
「突撃!」
騎士の一人が扇動し、魔物の軍勢へと兵士達とともに突撃を開始する。
乱戦状態になるも、国を守るために覚悟を決めた兵士達が魔物達を圧倒する。
「行ける!このまま押し切る…!?」
騎士の一人が腹に違和感を感じると、血を吐き出していた。
「コロスコロス」
ニードルマンの爪が騎士の胸を貫いていた。
「こ、こいつら…!?」
兵士達が次々と現れたニードルマン3匹によって命を奪われていく。
「まずい…!」
ホープからは、冷や汗が滴り落ちる。
善戦していた戦況が崩れ去ったからだ。
一度崩れた戦況は、覆る事は難しい。
「ニンゲン、モロイ。タイシタコトナイ」
ニードルマン3匹に続いて、魔物達が虫の息になった兵士達へと無情にもトドメを刺していく。
呻き声、悲痛な声が戦場でこだまする。
地獄絵図だ。
「こ、このままじゃ…」
兵士達が後ずさる。
中には既に逃げ始める兵士さえいる。
「体制を立て直すんだ!陣形を…」
フィンツが指示を出すも、逃げる事に必死な兵士達は聞く耳を持たない。
フィンツはさっきまで傍にいたホープの姿がどこにもない事に気付いた。
再び、ホープを見付けた時には、
「ギガブレイクッ!!!」
迸る稲妻とともに、魔物達を薙ぎ払った。
そして、怒鳴り声を上げるホープの姿を目にする。
「聞けェッ!貴様らが退けば、誰が国を守るッ!愛する者、家族が蹂躙されてもいいのかッ!!!」
逃げ仰せていた兵士達が足を止め、ホープへ視線を向ける。
「剣を取れッ!立ち向かえッ!誇りがあるならば…覚悟あるならばッ。私に続けッ!!」
ホープは、剣を翻し、魔物へと立ち向かうのだった。