第二章~EPISODE12【魔力解放】

アルバ王国への帰路。

王女であるフリーデン達を乗せた馬車は、進む足を止める。

同乗していたフィルゼンは、眠りに付いているフリーデンを横目に、馬車から降りた。

「何者だ!我らはアルバ王国王女フリーデン様の護衛と知っての事か!」

「どうしたの?」

フィルゼンが騎士達の隙間から覗き込むと、そこには、ヘルムを着用した騎士が不気味な雰囲気を纏わせて立っていた。

明らかに、馬車が通り抜けられないように、真ん中に立っている。

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「あいつは確か…」

フィルゼンは知っていた。

知っているも何も、大国ゼバン国王、レストの護衛だ。

アルバ王国騎士団の騎士達は、剣に手を掛ける。

「下がれっ!」

ナルゼが叫ぶと同時に、騎士達をすり抜けるようにして、大国ゼバンの護衛は、フィルゼンへと急接近して来る。

フィルゼンは、抜剣し、突き出された剣を弾く。

大国ゼバンの護衛がすり抜けた後には、アルバ王国騎士数名の血飛沫が上がった。

敵意を向けられるも、ナルゼは冷静に指示を下す。

「残った者は、姫様の護衛だ。陣形を崩すな」

フィルゼンに目をやると、頷く。

ナルゼは、フィルゼンが戦いやすいように場を整える。

アルバ王国騎士達が、フリーデンの馬車とともにその場から離脱した。

護衛は、脇目も振らず、フィルゼンだけを、じっと見つめている。

「目的は分からないけど。敵なら、倒す!」

護衛は、首をコキリと鳴らし、剣をフィルゼンへも向けた。

「はぁッ!!」

フィルゼンと護衛は、剣を交える。

剣術は、互角。

護衛は少し驚いた素振りを見せる。

フィルゼンが突きを繰り出すと、ひらりと宙を舞い、かわされた。

「……」

護衛は、一言も発する事はなかった。

フィルゼンにとっては、不気味で仕方がない。

大国ゼバンには、手練の騎士が数多くいると噂される。

しかし、この護衛からは、手練とはまるで違う、雰囲気を纏っているのだ。

はやぶさ斬り!」

フィルゼンは、様子見のつもりで、【はやぶさ斬り】を繰り出した。

一振で斬撃が2つ。

それを、護衛は瞬時に斬り払ってみせた。

フィルゼンは、【とくぎ】を繰り出したにも関わらず、護衛からは【とくぎ】を発動させた素振りはない。

つまり、自らの剣撃でフィルゼンの【はやぶさ斬り】を相殺した事になる。

(強い…)

フィルゼンは、平和になったからと鍛錬を欠かした事は一度足りともない。

この護衛は、剣撃のみで、自らの実力を証明している。

フィルゼンは、剣を翻し、護衛の懐へと飛び込む。

防ぐための初撃を繰り出して来た。

フィルゼンは、初撃を見極め、胴体を斬り付けると、弾かれてしまう。

間違いなく、剣は胴体を斬り付けた。

剣ではない、何かに防がれたのだ。

フィルゼンは、すかさず距離を保ち、魔力を感知する。

護衛は、薄い膜のようにして、魔力を全身に帯びていた。

魔力は、【とくぎ】や【呪文】を発動させる為だけに存在している訳では無い。

攻撃力、防御力にさえ、応用させる事が出来る。

保有する魔力量に寄るが、魔力を帯びていない状態の剣では、傷を負わせる事は難しい。

(魔力防御か…)

フィルゼンは、倒れた騎士の剣を拾い上げて、魔力を全身に巡らせ、剣に纏わせる。

一息で距離を縮め、繰り出した剣を、護衛は剣で弾きつつも、紙一重で避けた。

魔力防御を展開しているとはいえ、フィルゼンが剣に魔力を纏わせている状態ならば、貫く事が出来る。

避けているのは、魔力防御よりも、フィルゼンの纏わせている魔力が上回っているからだろう。

「!?」

護衛は、足元に転がっていた石に踵をぶつけてしまい、体勢を崩した。

好機。

逃す手は無い。

「もらった!」

剣が護衛に触れる直前、目映い閃光と共に、フィルゼンは押し飛ばされてしまった。

「くっ!」

地面に転がりながらも、体勢を整え、対峙すると、護衛からは、目ではっきりと捉える事が出来る程、紫色の魔力が護衛を覆っていた。

「……」

護衛は、抑えていた魔力を解放していた。

本気という事だ。

首をコキリと鳴らすと、ジグザグの軌道を描きながら、距離を詰めて来る。

目で捉える事が遅れる程の、俊敏な動き。

ほぼ直感で、護衛の剣を受ける。

「【魔力解放】…!」

フィルゼンも魔力を解き放ち、抑えていた魔力が全身に行き渡る。

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青色の輝きを纏い、護衛と鍔迫り合いになった。

火花が散り、押し負けまいと、護衛に全力で魔力をぶつける。

護衛を押し飛ばし、魔力を集中させた。

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「【不死鳥天舞】…!」

フィルゼンは、青白く輝きを放つ翼を身に纏い、剣を静かに護衛に向けた刹那。

目にも止まらぬ、連撃と共に、護衛を地面に沈めた。

「峰打ちだ。答えてもらうぞ…何故、攻撃して来た…か…」

フィルゼンは、目を疑ってしまう。

殺すつもりではなく、峰打ちに留めた。

しかし、護衛は衣服が傷付いているだけで、何事もなかったように、その場に立っているからだ。

「……」

何回か頷き、フィルゼンの前から姿を消した。

「待て!…逃げられたか…」

フィルゼンは、歯痒い思いを払拭出来ず、剣を鞘に納めた。