第二章~EPISODE27【仇】
アルバ王国ーー。
「大丈夫か…?」
アルドは瓦礫を退かし、庇ったイルに視線を向ける。
額から血を流して気絶しているようだが、息はしている。
周囲を見渡すと、廃墟と化した街並みが広がっていた。
「一体…誰がこんな事を…」
すると、アルドは空に気配を感じ、目をやる。
「あれは……?」
神々しい謎の生物が宙に浮かんでいる。
その姿は、まさしくアルドの故郷を滅ぼした存在だった。
いても立ってもいられるはずもなく、その生物へ向かって走り出す。
倒すべき仇だからだ。
生物へ近付いたと思いきや、姿がみるみる萎んで行き、視線を向けた先には、白コートに仮面を着けた男と赤と黒の鎧を身に纏うオーガが立っていた。
「おい、今のは何だ!それにお前らは…」
「ヘレス、やっぱり連続使用はキツイよね〜。体が痛い痛い」
「ふっ、トレートル。相手してやれ、あそこに生き残りがいるぞ?」
「んん?本当だ」
トレートルは、ふざけた様子でアルドへ目を向ける。
「これは、お前達がやったのか!」
「そうだよ?」
「あの生物は何だ!」
「それは、教える義理はないなぁ。だって、君はここで死ぬのだから♪」
トレートルは、くねくねと体を揺らす。
「ふざけやがって…。俺の故郷を滅ぼしたのは、てめぇらだな」
「故郷?」
トレートルが聞き返すと、アルドは短剣を引き抜く。
「最南端の街、ガホウっていう街を知っているか?13年前…俺の故郷はその生物に滅ぼされた。アレもお前らがやったのか!?」
込み上げる怒り。
13年前、アルドから全てを奪った仇が目の前にいる。
大切な妹であるルイスを奪った原因が目の前にいるのだ。
「ガホウ…ねぇ?あー!あー!思い出した思い出した。大国ゼバンに植民地にされ、名も奪われた敗戦国家の生き残りかー。あんな街、無くなったって誰も困りやしないさ」
「何だと…!」
トレートルは、更に言葉を続けた。
「それに、いい練習台だったよ。あの街は」
間違いない。
こいつらが、自身の故郷を滅ぼした張本人だと。
頭に完全に血が上る。
たった1人の家族を奪われ、愚弄。
腸が煮えくり返る程の衝動。
「殺してやるッ!!」
アルドは、頭に血が上り、我を失っている。
冷静さを欠いた状態で、勝ち目がある相手ではない。
踏み込んだ瞬間、アルドはバランスを崩して、後ろへ倒れそうになる。
「アルド、慌てるんじゃないよ」
ゆっくりと視線を向けると、そこには、遠征騎士団改め、アルバ王国騎士、シルワがアルドの襟を掴まえ引き止めていた。
「離して下さい、シルワさんッ!あいつらが俺の故郷を!!」
「まぁまぁ落ち着きなよ。故郷を滅ぼされたのは分かる。だが、冷静さを欠くな。無鉄砲で勝てる相手じゃないよ」
普段からお気楽口調のシルワが珍しく真剣な表情で諌める。
アルドは、その表情を見てすぐに冷静さを取り戻した。
自身よりも実力者である、シルワが警戒している様子を見れば、嫌でも冷静になる。
「敵にしては、大胆な事をしますね」
続いて駆け付けて来たのは、ドワーフのライゼだった。
「ふん。敵ならば倒すだけだ」
アルバ王国騎士団副団長のサイシンまでも駆け付けて来ていた。
アルドにとって、心強いなんてものじゃない。
アルバ王国の主力が3人も来たのだ。
怖いものなんてない。
「ふっ。遠征騎士3人か。トレートル、手を貸すぞ?」
ヘレスは、斧に手を掛けると、トレートルは首を横に振る。
「いらないよ、君の出る幕じゃない。魔力をほとんど使ったけど、3人程度なら全然大丈夫」
トレートルは、余裕な立ち振る舞いで前に出る。
「わたしらも嘗められたものだねー。なら、こっちは遠慮なく3人で相手するよ」
シルワ、ライゼ、サイシンは魔力を体に巡らせるのだった。