第二章〜EPISODE5【アルドの苦難】
「アルドさんアルドさん!」
新兵のイルが近付いて来る。
「どうした?」
「これを何処に置けばいいですか!?」
木箱を3箱重ねて持ってきたが、足元がふらついている。
「おい、あんまし無理すん…」
「わわっ!?」
ドシーン。
と、木箱と共に転んでしまった。
アルドは思わず、顔を手で伏せてしまう。
「全く…」
イルは、年齢15歳の少女であるが、こう見えて、【不死鳥の騎士団】最年少の団員である。
戦いに秀でていないものの、【不死鳥の騎士団】において、欠かせない存在なのだ。
それは、2年前に遡る。
※
【不死鳥の騎士団】が戦力確保のため、新兵を募った。
【アルバ王国騎士団】団長である、ナルゼからアルドは、とんでもない命を受ける。
「じ、自分が…【不死鳥の騎士団】の教官に?」
「そうだ。君は目利きだし、適任だと思うんだけど…」
「荷が重いですよ…」
同期達が【不死鳥の騎士団】に入団する中、アルドは力量不足を感じ、自ら進んで【アルバ王国騎士団】への後衛を選んだ。
前線から離れたアルドにとって、前衛を担う者達を育てるのに、抵抗がある。
「あの時みたいに、即戦力を育てる訳じゃないし、君のペースで育ててくれれば良いんだ」
ナルゼが少しニコッと頬を緩ませる。
(笑えねぇ…)
「それに、君は俺の部下だし。まぁ、命令って事でよろしく」
「分かりました…」
アルドは渋々承諾し、【不死鳥の騎士団】候補生達の教官となるのだった。
※
【不死鳥の騎士団】候補生達は、全部で30人。
アルドの訓練内容にもよるが、ここから何人辞めるかは分からない。
訓練過程が終えたとしても、全員をいきなり実戦という訳にはいかない。
それをアルドが見極め、何人かは【不死鳥の騎士団】で、残りは【アルバ王国騎士団】で育てる事になるだろう。
「今回、お前らの教官になるアルドだ。知っての通り、【不死鳥の騎士団】は、アルバ王国の顔と言ってもいい。平和になったとは言え、魔物がまた猛威を奮うか分からない。心して訓練に望んでくれ。いいな?」
「「はっ!!」」
こうして、アルド指導のもと、訓練が幕を開ける。
※
まずは、基礎体力。
ランニングを始めて、2時間が経過。
武に秀でていたとしても、基礎体力が無ければ、話にならない。
既に全体のペースは落ち、脱落とまではいかないが、何人かは周回遅れとなっている。
特に…。
青みを帯びた髪色の少女は、もう20周遅れだ。
(名前は、イル。年齢は13歳…か)
アルドは、フィルゼンの候補生時代と重ねてしまう。
(あれが…普通だよな)
やはり、フィルゼンは、他とは違う何かを兼ね備えていたのだと再認識する。
「よし、次は模擬戦闘を行う、集合は30分後だ。遅れるな!」
※
(基礎体力は…何とかなるとして、後は精神面か…)
ブツブツとボヤきながら、訓練場へと足を運ぶ。
すると、
「なんだと…このガキぃっ!!」
「調子に乗るなよ!」
などと、怒号が響き渡っていた。
他所で訓練したであろう候補生がイルに凄んでいた。
「お前ら、何してるんだ?」
アルドが声を掛けると、一同は整列する。
「誰か事情を…」
「んなもん、俺が教えてやるよっ!」
アルドの言葉を遮り、高圧的に候補生が怒鳴り散らす。
「俺らは、お前のような格下に習う事なんか何もねぇって言ったんだ!大した実力もねぇ、このガキが俺らを弱いとほざいたんだよ!」
アルドに習う事が気に食わないらしい。
それを、イルが注意したのだ。
「事実だからじゃないのか?」
「てめぇも感じるだろ!?俺らの魔力をよ!」
「ひと目見れば、他の候補生達より強いのは分かる。だが、魔力を抑えられないようじゃ、その程度って事だ」
アルドが言い放つと、候補生は激昂する。
「ふざけるんじゃねぇ!知ってるぜ、アルドさんよぉ。前線から逃げた腰抜けだってなぁ?」
候補生は、ニヤリと笑う。
アルドが激昂したところを、完膚なきまでに叩きのめす事が出来ると踏んでいた。
しかし、候補生達は驚愕する事となる。
「だから、どうした?」
冷静に言葉を返したのだから。
「別に、前線で戦う事が全てじゃない。向き不向きが誰にだってある。俺は自分の限界を知っているからこそ、後衛になったんだよ」
更に言葉を続ける。
「それにな。後衛があってこその前衛だ。完全無欠な存在なんて、早々いるもんじゃないんだよ」
「だったら…なっ!?」
候補生は、息を詰まらせる。
喉元に短剣を既に突き付けられていた。
「これが戦場なら、お前は死んでる」
アルドが低い声で、言い放つと、一瞬だけ見せた魔力を体で感じる事となった。
アルドから感じた魔力量は、候補生達よりも強いものだった。
ごくりと候補生は息を呑み、その場にへたれこんだ。
「今日の訓練は終わりにする。今一度、お前らで考えて、明日の10時にここに来い」
アルドは、そう告げて、短剣を納めた。
「イル。お前は残れ」
「は、はい!」