第二章〜EPISODE5【アルドの苦難】

「アルドさんアルドさん!」

新兵のイルが近付いて来る。

「どうした?」

「これを何処に置けばいいですか!?」

木箱を3箱重ねて持ってきたが、足元がふらついている。

「おい、あんまし無理すん…」

「わわっ!?」

ドシーン。

と、木箱と共に転んでしまった。

アルドは思わず、顔を手で伏せてしまう。

「全く…」

イルは、年齢15歳の少女であるが、こう見えて、【不死鳥の騎士団】最年少の団員である。

戦いに秀でていないものの、【不死鳥の騎士団】において、欠かせない存在なのだ。

それは、2年前に遡る。

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【不死鳥の騎士団】が戦力確保のため、新兵を募った。

アルバ王国騎士団】団長である、ナルゼからアルドは、とんでもない命を受ける。

「じ、自分が…【不死鳥の騎士団】の教官に?」

「そうだ。君は目利きだし、適任だと思うんだけど…」

「荷が重いですよ…」

同期達が【不死鳥の騎士団】に入団する中、アルドは力量不足を感じ、自ら進んで【アルバ王国騎士団】への後衛を選んだ。

前線から離れたアルドにとって、前衛を担う者達を育てるのに、抵抗がある。

「あの時みたいに、即戦力を育てる訳じゃないし、君のペースで育ててくれれば良いんだ」

ナルゼが少しニコッと頬を緩ませる。

(笑えねぇ…)

「それに、君は俺の部下だし。まぁ、命令って事でよろしく」

「分かりました…」

アルドは渋々承諾し、【不死鳥の騎士団】候補生達の教官となるのだった。

【不死鳥の騎士団】候補生達は、全部で30人。

アルドの訓練内容にもよるが、ここから何人辞めるかは分からない。

訓練過程が終えたとしても、全員をいきなり実戦という訳にはいかない。

それをアルドが見極め、何人かは【不死鳥の騎士団】で、残りは【アルバ王国騎士団】で育てる事になるだろう。

「今回、お前らの教官になるアルドだ。知っての通り、【不死鳥の騎士団】は、アルバ王国の顔と言ってもいい。平和になったとは言え、魔物がまた猛威を奮うか分からない。心して訓練に望んでくれ。いいな?」

「「はっ!!」」

こうして、アルド指導のもと、訓練が幕を開ける。

まずは、基礎体力。

ランニングを始めて、2時間が経過。

武に秀でていたとしても、基礎体力が無ければ、話にならない。

既に全体のペースは落ち、脱落とまではいかないが、何人かは周回遅れとなっている。

特に…。

青みを帯びた髪色の少女は、もう20周遅れだ。

(名前は、イル。年齢は13歳…か)

アルドは、フィルゼンの候補生時代と重ねてしまう。

(あれが…普通だよな)

やはり、フィルゼンは、他とは違う何かを兼ね備えていたのだと再認識する。

「よし、次は模擬戦闘を行う、集合は30分後だ。遅れるな!」

(基礎体力は…何とかなるとして、後は精神面か…)

ブツブツとボヤきながら、訓練場へと足を運ぶ。

すると、

「なんだと…このガキぃっ!!」

「調子に乗るなよ!」

などと、怒号が響き渡っていた。

他所で訓練したであろう候補生がイルに凄んでいた。

「お前ら、何してるんだ?」

アルドが声を掛けると、一同は整列する。

「誰か事情を…」

「んなもん、俺が教えてやるよっ!」

アルドの言葉を遮り、高圧的に候補生が怒鳴り散らす。

「俺らは、お前のような格下に習う事なんか何もねぇって言ったんだ!大した実力もねぇ、このガキが俺らを弱いとほざいたんだよ!」

アルドに習う事が気に食わないらしい。

それを、イルが注意したのだ。

「事実だからじゃないのか?」

「てめぇも感じるだろ!?俺らの魔力をよ!」

「ひと目見れば、他の候補生達より強いのは分かる。だが、魔力を抑えられないようじゃ、その程度って事だ」

アルドが言い放つと、候補生は激昂する。

「ふざけるんじゃねぇ!知ってるぜ、アルドさんよぉ。前線から逃げた腰抜けだってなぁ?」

候補生は、ニヤリと笑う。

アルドが激昂したところを、完膚なきまでに叩きのめす事が出来ると踏んでいた。

しかし、候補生達は驚愕する事となる。

「だから、どうした?」

冷静に言葉を返したのだから。

「別に、前線で戦う事が全てじゃない。向き不向きが誰にだってある。俺は自分の限界を知っているからこそ、後衛になったんだよ」

更に言葉を続ける。

「それにな。後衛があってこその前衛だ。完全無欠な存在なんて、早々いるもんじゃないんだよ」

「だったら…なっ!?」

候補生は、息を詰まらせる。

喉元に短剣を既に突き付けられていた。

「これが戦場なら、お前は死んでる」

アルドが低い声で、言い放つと、一瞬だけ見せた魔力を体で感じる事となった。

アルドから感じた魔力量は、候補生達よりも強いものだった。

ごくりと候補生は息を呑み、その場にへたれこんだ。

「今日の訓練は終わりにする。今一度、お前らで考えて、明日の10時にここに来い」

アルドは、そう告げて、短剣を納めた。

「イル。お前は残れ」

「は、はい!」

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