第二章〜EPISODE16【すれ違い】

フィルゼンが、ナルゼと出会う一年くらい前の事だった。

フィルゼンには、親友と呼べるたった一人の友達がいた。

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「じゃじゃーん!今日はご馳走!」

「ご馳走?」

フィルゼンが、ゴクリと喉を鳴らす。

「食べかけのハンバーガー!」

金髪の少女、ネイはゴミ捨て場にあったハンバーガーを高々と掲げる。

ネイが唯一、心を許せる初めての友達だ。

一日を生きる2人にとっては、ご馳走と呼べる、原型を留めた食品なのだ。

苦楽を共にし、フィルゼンはネイと過ごす日々が楽しかった。

「ねぇ、フィルゼン!いつか、2人で旅に出よう!」

「旅?」

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「うん!世界は広いんだ。色んな国を見て、色んな人と出会って!きっと楽しいよ!」

「そうだね。ネイとなら楽しそう」

しかし、平和な日々は長くは続かなかった。

「こほっ…こほ…」

ネイが病に侵されたのだ。

「大丈夫…?凄い熱…」

フィルゼンは、布を水で濡らして、ネイの額に置く。

「直ぐに…良くなるよ…!」

ネイは強がって見せるが、一向に回復する見込みはなかった。

金さえあれば、然るべき治療を受け、病気は完治するだろう。

この国では、金が全て。

それに貧民街では、常に劣悪な環境だ。

路上で野垂れ死ぬのは、当たり前。

フィルゼンは、親友であるネイを見捨てる事は出来なかった。

「病院に行こう…」

フィルゼンは決心する。

ネイを救うには、病院しかない。

「でも…私らじゃ診てくれないよ…」

フィルゼンは、ネイの手を握り締める。

「2人で旅に出るんだ。ここで死んじゃったら、夢で終わっちゃう」

「そっか…そうだよね。貯金、またしないとだね」

ネイは病院に行く事を決意した。

2人で貯めた10万Gを手に、中心街にある病院へと向かった。

道行く人達は、フィルゼン達を汚物でも見るような視線を向ける。

実際、貧民街でお風呂に入る概念なんて存在しないのだから当然だ。

そんな事を気にしている場合ではない、ネイを早く病院に連れて行かなければならない。

病院へと辿り着いた2人は、扉を開け、頼み込んだ。

「お願い!友達が死にそうなんだ!」

地面に頭を擦り付けながら、頼み込む。

医者が駆け寄って来ると、思いがけない言葉が返ってきた。

「どこのガキか知らないけど、ここは病院だよ?そんな汚らしい格好で来る人達を診る訳にはいかないよ」

「お金ならここにある!」

フィルゼンは、10万Gを渡すと、医者は苦しそうな表情を浮かべているネイを見る。

「あー、うん。助からないね」

「そんな…ちゃんと診てよ!」

「うるさいな。ちゃんと見ただろう?」

「じゃあ…お金は返して…」

「受診料って事で貰っておくよ」

「ふざける…がはっ!」

フィルゼンは、医者に蹴り飛ばされてしまった。

見るからに法外な治療費に、子供への暴行。

許されるものではない。

しかし、誰もが見て見ぬふり。

というよりは、当然なのだ。

貧民街出身となれば、人権なぞ存在しない。

ゴミ同然の扱いを受けるのだ。

「この薄汚いガキが!ペッ」

医者は唾を吐き掛け、病院へと入って行った。

「…ネイ?」

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地面に転がったネイに駆け寄ると、息をしていなかった。

「…そんな…」

信じられなかった。

助かるはずだと思い、連れて来た病院では、診療さえ受けられず。

挙げ句の果てには、親友であるネイを死なせてしまった。

理解出来ない現実に、打ちひしがれていると、

爆発音が鳴り響き、魔物達が国を襲った。

混乱する街中で、フィルゼンはネイを担ごうとするが、市民達の逃げ惑う波に呑み込まれ、見失ってしまう。

命からがら生き延び、戻って来た時には、ネイの亡骸はどこかへ消えてしまっていた。

フィルゼンは、後悔した。

二度と大切な人を作らないと。

失うのが辛いのなら、一人でいい。

そう、強く誓った。

感動の再会とはいかないが、フィルゼンはネイが生きていた事に安堵していた。

死んだはずの親友が目の前にいるのだから。

「色々、あったけど。私はこうして生きている。フィルゼン、私達と一緒に世界を変えようよ」

ネイはフィルゼンに手を差し伸べるが、フィルゼンは、手を取る事はなかった。

「私は…ネイ達がやろうとしてる事を正しいとは思えない。私にそれを教えてくれた人がいる。世界を変えるためには、誰かがやらなくちゃいけない」

「……」

「けど…そんなやり方じゃ、憎しみだけが残る。いつまでも変わらない…!」

「フィルゼン…」

ネイは冷たい目を向けた。

「がっかりだよ」

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深い溜め息を零し、軽蔑するような眼差しだった。

殺気さえ感じる。

憎悪に満ちた眼。

フィルゼンは、気圧されてしまう。

「私が生死をさ迷って地獄のような日々を暮らしてたって言うのに…。フィルゼンは、ぬくぬくとした環境で育って、本当の地獄を知らないから、そんな綺麗事を吐き散らす」

「ネイ…」

「これだけは覚えておいて、強者が君臨する限り、弱者は虐げられる」

「……」

「これで分かったよ、フィルゼン。貴女は倒すべき敵だって。まぁ、私の目的は果たせたから、今日は見逃してあげるよ」

「?」

「ふっ。アルバ王国は、今日で終わりだ」

「なっ…」

「足止めは出来た。またね、フィルゼン」

「ネイ!」

ネイ達は、姿を消した。

「早く戻らないと!」

フィルゼンは、アルバ王国へと駆け出した。