第二章~EPISODE17【迫る悪意】

【未来へ繋ぐ者達《テスタメント》】基地内では、混乱が生じていた。

「どういう事だ、エイブル!」

騒ぎを聞き付けた【大陸最強】ホープは、頭を悩ませているエイブルへ確認する。

「分からない…。僕達の仲間が次々と襲われている。それに、【|未来へ繋ぐ者達《テスタメント》】と同盟を結んだ国々も壊滅させられている」

アルバ王国は?アルバ王国は無事なのか!?」

「さっきから連絡を取っているけど、アルバ王国に繋がらない。それに、ルーラストーンも機能していない…」

ルーラストーンは、瞬時にその場所へ移動する事が出来る結晶なのだが、世界に流通はしておらず、テスト段階として、配備されている国は数カ国しかない。

「報告します!」

伝令が司令室へと飛び込んで来る。

「ヘステル共和国から、応援要請!何者かの襲撃を受けているようです!」

「くそ!」

ホープっ!」

エイブルの制止を振り切り、一人、救援に向かった。

ホープ達が身を潜めている国からは、馬で3時間は掛かる。

アルバ王国や他の同盟国にも急いで知らせるんだ」

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東に位置する辺境、ヘステル荒野ーー。

「先を急がねば…」

ホープ様、偵察班との連絡が途絶えているとの報告アリです」

その斜め後ろから、タキアが声を掛ける。

「タキア、各地の仲間へ連絡しろ…手遅れになるぞっ!」

「了解です」

タキアは、ホープが馬を走らせた方向から外れ、指示通り伝達へと向かった。

(くそ!同盟国と、連絡が途絶するとは…。敵は既に動いていたのか!)

ホープは馬を走らせ、ヘステル共和国の国境へ近付いた途端、辺りには既に交戦したであろう痕跡が残っている。

そこから、数百メートル進んだ先には、ヘステル共和国の兵士達の屍が広がっていた。

見るも無惨に、蹂躙された後だった。

「誰がこんな事を…!!」

そこへ、異様な魔力を帯びた、仮面を着けた女ウェディが姿を現した。

「誰かと思えば、【大陸最強】のホープじゃないか」

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ケタケタと笑みを浮かべている。

「貴様がやったのか?」

ホープの問いに、女ウェディは、ニヤリと微笑む。

「お前の組織の同盟国と言うのだから、期待はしたが…、拍子抜けだった。【大陸最強】も案外、大した事ないのだろう?」

「やってみるといい…!」

ホープは剣を引き抜き構え、抑えていた魔力を解き放つ。

「【|黒不死鳥《ハルファス》】幹部が一人、ネグロ。いざ…」

ネグロと名乗った女ウェディは、ゆらりと槍を構えてみせた。

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「がはっ…」

ホープは、ネグロと名乗ったウェディに苦戦を強いられる。

「期待外れだな。ここまで弱いとはな」

ネグロは構えを取ったまま、その場を動かない。

「まだだッ!!!」

ホープが渾身の力を込めて、剣を振り下ろすと、ネグロの体をすり抜ける。

その瞬間、視覚外から、鋭利な刃物で斬りつけられたかのような裂傷を受けた。

「この技を見切れないとはな」

【水流の陣】。

受けを前提とし、確実な反撃を繰り出せる構えである。
攻撃を当たったと錯覚させ、視覚外から攻撃を受けたと誤認させる事が出来る。

ホープが苦戦しているのは、破る手段を見付けられていないからだ。

物理攻撃を全くと言っていい程、受け付けてくれない。

「ガッカリだ」

ネグロから放たれた一閃。

「何!?」

「こうすれば…貴様も動けないだろう…」

ホープは、ネグロの攻撃を避ける事はせず、堂々と受け止めた。

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しかし、ネグロの槍はホープの腹を貫いている。

それを自らの肉体で止めたのだ。

【大陸最強】としてはなく、自らの覚悟を見せた。

「正気か…!」

「正気じゃないだろうな。私にも意地ってもんがある…。貴様はここで終わりだ!」

ホープの剣に魔力が収束していく。

「超…はやぶさ斬りッッ!!!」

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血飛沫を散らし、渾身の一撃を放つ。

ネグロは地面に背中から落下し、転がった。

「侮ったか…」

ネグロは、血を吐き出し、ふらふらと立ち上がる。

雑魚と認定していた、ホープが、底力を見せるとは思いもしなかった。

決して喰らうはずのない攻撃を受けた事に対して、何とか冷静さを保つ。

「くっ…!」

ホープは槍を引き抜くと、腹から溢れ出た血が血溜まりを作り、足に力が入らなくなり、地面に倒れてしまう。

「ちっ…時間か…。今日は退いてやる。次会う時が貴様の最後だ」

そう吐き捨て、姿を消した。

ホープは現実を突き付けられる。

足元にも及ばない。

と。

敵の実力は、自身の力ではどうにもならない程の開きがあると痛感せざるを得ない。

「まだ…やるべき事は…ある…!」