EPISODE1、第一章~【不死鳥】~
狩る者の目論見通り、【大陸の女神】が戦死した事実は知れ渡り、奮戦していた世界の防衛戦線は衰退し、魔物達の猛威があらゆる国々を蹂躙せしめた。
そんな中で、フィルゼンを含む、【遠征騎士】候補生達は、訓練に明け暮れていた。
【遠征騎士】騎士団長、ナルゼの命を受けて、教官達が予定していた訓練よりも、過酷なものへとなった。
早く戦場へと派遣するために…。
「本日は、模擬戦闘訓練を実施する!対戦相手は、くじ引きによって決める!」
今までは、基礎体力訓練。
今回の模擬戦闘訓練で、候補生達の力量差が測られる。
教官達による厳しい採点が待っている。
「貴様らはゴミ虫以下だ!候補生として残りたくば、他者を蹴落としてでも生き残れ!」
教官指揮のもと、くじによって決められた対戦相手が貼り出される。
模擬戦闘訓練は、三回対戦し、二勝すれば候補生として残る事が出来るが、全敗したのなら候補生からは外されてしまう。
候補生の中には、元兵士や傭兵経験もある。
対戦相手を見て、既に絶望している者もいる。
フィルゼンはというと。
「あのガキと当たりたかったな…」
「くっそー…」
絶対に勝てるカモ扱いを受けていた。
「初戦は、フィルゼンと当たらなくて良かった〜」
テティが胸を撫で下ろす。
基礎体力訓練期間中、フィルゼンと親しかった彼女にとって、思うところがある。
「別にテティと当たっても、私は容赦しないけどね」
「ホント容赦ないわねー」
フィルゼンの頭の中には、余計な感情はなく、ただ勝利だけを見据えている。
「でも気を付けなよ?初戦の相手は…」
テティが忠告しようとしたが、フィルゼンは、既に戦う準備を始めていた。
「誰であろうと関係ないよ。要するに勝てばいいんだから」
フィルゼンの言う通りだ。
フィルゼンの初戦の相手は、衛兵経験のある候補生である。
体格は、フィルゼンよりも一回りも二回りも大きく、簡単に捻り潰しそうだった。
フィルゼンは、一番手に馴染んだ木剣を手に取り軽く慣らす。
相手の候補生は、木剣を引き抜き、構えている。
他の候補生達が観戦している中、声援は相手の候補生へと掛けられる。
人望というやつだ。
フィルゼンの、第一印象は最悪である。
応援される訳がないのだが、テティを始めとする他の候補生数人はフィルゼンへと声援を送っていた。
「頑張れフィルゼン!」
「負けるなー!」
フィルゼンは、その声援を気にも留めていない。
「始め!」
教官の合図で、模擬戦闘訓練が開始した。
「運がねぇよな。お前は、この俺と戦うんだ。とっとと降参しろよ」
候補生が馬鹿にしたように笑い飛ばすと、観戦している候補生達は嘲笑する。
「第一、お前みたいなガキが、【遠征騎士】になんてなれる訳ないだろ」
候補生は長々とフィルゼンを馬鹿にし始めた。
テティ達が声援を送る隣りで、フィルゼンの中で印象最悪の候補生が独り言を零す。
「応援するだけ無駄だろ。結果は目に見えてるんだからよ」
「やってみなきゃ分からないじゃない!何であんたは、そんなにフィルゼンを目の敵にするのよ!」
テティが掴み掛かると、候補生は呆れたような表情を浮かべた。
「結果なんて、やる前から分かるだろうが」
「こいつ…!」
テティは、その候補生を殴り飛ばそうとすると、
「ハァッ!!!」
フィルゼンが発した気合いの入った一声が響き渡る。
「勝者、フィルゼン!」
観戦していた候補生達は、唖然とする。
フィルゼンの木剣が対戦相手の候補生の頭を強打し、地面に沈めた。
テティに掴み掛かられていた候補生は手を振りほどく。
「だから言ったろ?結果なんて分かってるって」
その候補生は、最初からフィルゼンが勝つことが分かっていたみたいな口振りだった。
「あんた…」
テティを横目にその候補生は、観戦している候補生達の波に消えた。
勝利したフィルゼンには、罵声の嵐が降り注ぐ。
「汚ぇぞ!」
「不意打ちなんて!それでも【遠征騎士】候補生か!!」
などと罵られる。
すると、フィルゼンは思わず笑ってしまう。
「あなた達、馬鹿じゃないの?教官が、開始の合図をした時点で試合は始まってる。ベラベラと話してた、そいつが悪い」
「んだとぉ!」
不意打ちで敗北した候補生は立ち上がり、フィルゼンに襲いかかろうとすると、フィルゼンの振り下ろした木剣が先程命中した頭部へと直撃し、再び地面に沈めた。
「これが、もし戦場だったらとっくに死んでると思わない?本当におめでたいよね。こんなガキに負けるなんて思ってもないんでしょ。ま、あんたらに負けるつもりなんて、鼻からないけどね」
フィルゼンが笑い飛ばすと、教官の怒声が響く。
「いい加減にしないか!勝利を取り下げるぞ!」
フィルゼンは、軽く頭を下げて、試合場から降りた。
堂々した立ち姿に呆気を取られる中で、印象最悪の候補生だけは、フィルゼンの足が若干震えている事を見逃さなかった。