EPISODE3、第一章~【不死鳥】~
フィルゼンは、木剣を引き抜き、教官と対峙した。
候補生達の残留を賭けて。
正直、他の候補生達がどうなろうと知った事ではない。
自分が残留するための障害になるのなら話は別だ。
「行けフィルゼン!」
「頑張ってくれ!!」
敵対していたとは、思えない程、候補生達の声援がフィルゼンに送られる。
「ちっ…あの馬鹿…」
アルドが舌打ちをすると、テティが反応する。
「大丈夫よ。フィルゼンなら、もしかしたら教官に勝てるかもしれないじゃない」
「馬鹿かお前。教官達の役職知ってんのかよ」
「馬鹿って何よ…。兵士か衛兵じゃないの?」
「それで【遠征騎士】の教官が務まるかよ。教官達は」
「始めッ!」
特別訓練が開始される。
「俺らがなりたがってる、【遠征騎士】…いや、【遠征騎士団】の各団長達なんだよ」
「うそ!?」
テティが驚いている間に、フィルゼンが既に一撃を浴びせられていた。
観戦していた候補生達の表情が青ざめていく。
模擬戦闘訓練を通して、フィルゼンの強さは知っている。
そのフィルゼンが手も足も出ず、一方的に教官に打ちのめされているのだから無理もない。
「どうした!口先だけか!!!」
教官の振り上げた木剣がフィルゼンの胴体を打ち上げる。
「がっ…」
フィルゼンは地面に倒れ、立ち上がろうと力を込めるが立つことさえ、ままならない状態だった。
ただでさえ、骨の何本かに皹が入っているからだ。
「はぁ…はぁ…はぁ…。まだ…ッ」
ポタポタと、頭からは流血。
誰もが見ても分かるくらいの痛々しさだ。
しかし、フィルゼンの目は死んでいない。
「口程にもないな!」
(このやろう…)
フィルゼンは、木剣を杖代わりにして立ち上がり、呼吸を整えて、体に引き寄せるようにして木剣を構える。
「む!?」
教官は防御の姿勢を取った。
「はやぶさ…斬りッ!!」
一振で斬撃が二回繰り出される。
とくぎ、【はやぶさ斬り】であった。
しかし、教官に斬撃はいなされてしまう。
流石は【遠征騎士】騎士団長クラス。
フィルゼンの実力を持ってしても赤子当然なのだ。
「その歳で、既に【とくぎ】を会得しているのか。【とくぎ】というのは、こう使うのだ!」
教官が【はやぶさ斬り】を披露すると、フィルゼンは防ぎきれず、地面に倒れ込んだ。
「これで分かっただろ!貴様らが戦場でも使えないゴミ虫以下だという事が…」
教官が思わず後ずさってしまう。
フィルゼンが体を震わせながら、立ち上がっていたのだから。
「まだ…終わって…ないッ」
「もう…十分だよ、フィルゼン!このままじゃあなたが!」
テティが止めに入ると、フィルゼンが叫び声を上げる。
「うるさいッ!これは…ッ私の戦い…ッだッ!!」
フィルゼンの頭の中には、【遠征騎士】になって安定した地位を手に入れる事しかない。
こんなところで躓いている訳にはいかないのだ。
フィルゼンは、木剣を空へと掲げると、落雷が発生し木剣に収束する。
「ギガ…スラッシュッ!!!」
とくぎ、【ギガスラッシュ】。
呼び寄せた稲妻とともに、周囲を薙ぎ払う。
「馬鹿者が!」
教官の振り抜いた一撃がフィルゼンの頭部へと直撃。
フィルゼンは倒れてしまう。
候補生達が駆け寄る中、
「フィルゼン!!」
と、テティの呼ぶ声を最後に、意識を失った。