第8話Re:make・EPISODEフィルゼン
東国、ファルド王国避難区画においてーー
水色髪のショートツインテールの女の子が避難施設に駆け込んで来る。
「はぁ…はぁ…エイブルさん!いる!?」
「おやおや…そんなに慌ててどうかしたのかい?フリッシュ」
フィンツの妹であるフリッシュに対して、穏やかな雰囲気を持つプクリポ、エイブルが優しく微笑みかける。
「退却して来た兵士達の中に、お姉ちゃんがいないの!!ここに来てない!?」
フリッシュは、門で疲弊し切った兵士達の中に姉であるフィンツがいなかったため、幼い頃からの親しい友人であるエイブルの元へ来ていると思い駆け込んで来たのだ。
「僕は見てないよ?彼女の事だ。ホープと一緒に戦ってるはずさ」
何かを伝えようとしているフリッシュの思いを汲み取り、エイブルが優しく語り掛ける。
流石は幼少の頃から神父としての修行を重ねただけの事はある。
実際のところ、国随一の【神父さん】なんて親しまれている。
「心配なんだね」
「……うん。お姉ちゃんに何かあったんじゃないかって思うと…ううっ…」
フリッシュは泣き出してしまった。
必ず誰かが死んでしまう戦場だ。
幼い彼女にとって不安で仕方がないのだ。
「泣いてばかりいると、またフィンツに笑われてしまうよ。ほら、無事を願って祈りを捧げよう」
エイブルは、祈りを捧げると、フリッシュも泣きながら祈りを捧げる。
「彼女は、いつだって君の元に帰って来るじゃないか。きっと今回も帰って来るよ」
「……うん」
(そうだろ?フィンツ…)
エイブルは、フリッシュに言い聞かせたものの、胸騒ぎがしていた。
狩る者の大鎌は、フィンツの体を無情にも斬り裂いていた。
血しぶきが上がり、フィンツは地面に倒れる。
斬られた傷口からは、血が溢れ出て、すぐに血溜まりを作った。
「貴様ァッッッ!!!」
怒りに身を任せ、狩る者に襲いかかった。
「おっと、危ない危ない」
ひらりとかわされ、距離を取られる。
追撃しようとすると、狩る者は、
「いいのかい?彼女を放っておいて。まだ助かるかもしれないよ」
と、言い放つと、ホープは追撃を諦め、フィンツを抱き寄せる。
「フィンツ!しっかりしろッ!」
目の焦点が合っておらず、生死を彷徨っている状態だった。
(単純だな…。これで猶予が出来たな)
不敵な笑みを浮かべながら、狩る者は姿を消した。
「ホープ…?どこ…だい…?…寒い…ん…だ…」
か細い声を上げて、幻覚を見ているようだった。
「私はここだ…!フィンツ、しっかりしろ!」
幻覚を見ているようでも、回復呪文であるベホイムを唱えようとしていたが、発動すら出来ていなかった。
震える手を伸ばすと、ホープが力強く握り締め、抱き寄せる。
「君の…足を…引っ…張っ」
「もういい…!分かった…!もう喋るな!今すぐお前を…」
「ホープ…聞いてくれ…」
「何だ…」
「君…は……ボク…達の…希…望……だ……君の…信じた道を……進め…」
ホープは、唇を噛み締める。
「平和…に…なった…ら…また…皆で…桜を…大きな桜を…見に…行こう…フリッシュ…も一緒…に…」
フィンツは脱力し、静かに息を引き取った。
「フィン…ツ…?なぁ…冗談だよな…目を開けてくれよ…お前は…」
いつも優しく微笑み掛けるフィンツは、黙ったまま動かない。
ホープからは涙が零れ落ちる。
「フィンツ…!!!」
ホープは絶叫し、自分の無力差を痛感した。
親友と呼べる彼女を目の前で失った。