EPISODE7、【馬鹿じゃないの?】
ーー防衛戦待機所
「はぁはぁ…」
兵士達は疲弊しながらも、魔物の軍勢の出現に備える。
「誰か…手を貸してくれ」
待機所には、先の戦いでの負傷兵達が担ぎ込まれる。
腕を無くした者、出血の激しい者。
凄惨なものだった。
【遠征騎士団】が各地で防衛戦を繰り広げている中で持ち堪えているのだ。
兵士への負担は大きい。
「突撃ばかり…頭がおかしいんじゃないか」
「何を無駄口を叩いている。それでも国を護る兵士か?情けない」
言い争いの相手は、前線の指揮を任せられているウェディ。
カラという女騎士だった。
彼女の評判は、はっきり言って、とても良いものではない。
陰では、使えない指揮官などと言われている。
「しかし…」
「無駄口を叩く余裕があるのなら、少しでも多くの魔物を倒すんだな」
カラは冷たく言い放つ。
フィルゼンは、呼吸を整えながら、武器の手入れをしようとした時、怒鳴り声が聞こえて来る。
「作戦を見直すべきです!」
嫌という程聞いた事がある声。
アルドだった。
「はぁ…。前線の指揮は、私が一任されている。ましてや、新兵の意見なぞ当てになるものか」
「このままでは、全滅するのも時間の問題ですよ」
「我々の任務は、戦線を維持する事だ」
「捨て石ですか?俺達は、ただ闇雲に命を捨ててる訳じゃないんですよ」
皮肉を込めて言い放つと、カラは眉をピクリと動かす。
癇に障ったようだ。
前線を維持すると言っても、真っ向から魔物を迎え撃ってばかりいては、戦線が崩壊するのも時間の問題である。
「黙って聞いていれば…図に乗るなよガキ。現に先の戦いで、魔物を撃退しただろうが」
「戦場の兵士が万全の状態なら、問題はないでしょう。しかし、連戦ともなれば、戦力が未知数な魔物相手に精神を削がれ続ける…。待っているのは全滅ですよ」
「私の指揮に問題があると?」
「ええ。取り返しが付かなくなる前に、何とかすべきです」
アルドとカラが睨み合う。
「新兵が偉そうに…」
「貴女は優秀な指揮官かもしれませんが、俺たちはあんたの駒じゃねぇよ」
アルドが喧嘩腰になる。
「言わせておけば…!」
カラが剣に手を掛けようとすると、フィルゼンが割って入る。
「揃いも揃って、馬鹿じゃないの?」
「「なに?」」
「言い争いして、この戦場を生き残れるなら良いんだけどさ?周りを見なよ。私はともかく、他の人達は疲弊してる」
カラは苦しむ兵士達を見て、目を背けてしまう。
「生き残れるなら別に良いんだけど、まぁ。鼻から頼りにしてないけどね」
フィルゼンは煽りながら、その場を立ち去ると、アルドとカラは顔を見合わせ、言い争いをしていたのが馬鹿らしくなる。
「アルドと言ったか?とりあえず、貴様の意見を聞こう」
※
「諸君、戦術を変える。前衛部隊は、陽動に回ってもらう」
アルドの意見を元に、カラは作戦を見直し、兵士達に伝達する。
この戦場は、崖に覆われた草原地帯。
作戦は、真っ向からの戦闘を極力避け、崖の通り道に誘導し、後衛部隊が崖の上から攻撃を仕掛けるものだ。
こうすれば、兵力を失わずに魔物を一掃できる可能性が高い。
「しかし…そう上手くいくものか?」
兵士達に疑問が生じる。
急な作戦変更に、戸惑っているのだ。
「魔物が攻めて来るまで待つ方が良いのでは?」
兵士の問いにアルドが答える。
「魔物とて、知性を持つ個体もいます。我々の作戦に気付かれないように、誘導しなければ意味がないでしょう」
「正直、この作戦は賭けだ。被害を最小限に抑えられるかのな」
カラが思い詰めたような表情を浮かべると兵士達は鼓舞し、腹を括る。
「前衛部隊は、フィルゼン、テティ。お前達も行け」
カラがそう命じると、アルドが反論しようとする。
「何か問題があるか?」
「いえ…何も…」
アルドは、歯を食いしばる。
一か八かの作戦が開始される事となった。